年末の忘年会シーズン、慌ただしくお過ごしでしょうか。
ねね(姉)は昨日何だかわからない忘年会に呼ばれたのでよく分からないけどとりあえず行ってきました。
プレミアムモルツが美味しすぎてぐいぐい飲んでいたら更に分からなくなり、あれ、一緒にいたK藤さんや幹事さんとお別れの挨拶したっけなんて思っていたら終電を逃したのです。
あれま、どうすっぺ。
とりあえず帰るか、行けるところまで電車に乗るか、と京浜東北線に乗り込みます。
飲みすぎちゃったからね、軽くリバースの予感がするのよ。
波が来るのよ。
あれー、おっかしーなー。リバースしちゃう??
やっぱしない。
いや、リバースしちゃう?
やっぱしない。
途中下車したらいよいよ帰れなくなるから、リバースしない!
とキメこみます。
こんな時限爆弾的な消化管を抱えながら40分、途中本当に帰るのを諦めそうになり、どこかホテルに泊まりたい、横になりたい座りたいという欲望と戦い、なんとか行けるところまで行けました。
ここから先はタクシーに乗ります。
が、埼玉県っていうのは夜タクシーがあんまり無くて、タクシー乗り場には20人くらいの行列。
昨日の深夜の寒さの中これに並ぶのか…と絶望が止まりません。ノンストップ絶望。
駅からねね宅まで10㌔。歩けないこともないけれど、2時間はかかる上、途中道も険しくなることが予測されます。
さすがに危ないかもしれない、うっすーい危機意識しか持ち合わせていないねねもこれはダメだなと思ってしまったので寒さの中タクシー待の列に並ぶことにしました。
コンビニでお茶を買い袋をもらい、いざというときのリバースに備えます。
タクシー待の行列、ネネの前にはキャバ嬢らしい若くてかわいい女の子がミニスカで「寒い、まじ寒い、さむっ」と風が吹くたびに小声で呟いていました。
そうだろうね、足から冷えが回るから、ちゃんとモコモコのタイツと毛糸のパンツを履かないとダメだよ、とおばさん心に思います。
もちろんダサいからね、キャバ嬢がモコモコパンツはいてたらダサいし指名入らなくなるだろうし、お店で着るドレスがモコついちゃって、「今日は帰って。次来る時そのモコモコパンツはいてたらクビだから」なんて言われちゃいそうだから、履いたほうがいいなんて言えませんでしたけど。
ねねはもちろんモコモコタイツとモコモコパンツ履いてたから、寒風吹きさらしのタクシー待の列に30分並んでも一言も「さむっ」なんて言いませんでしたよ。
モコモコパンツモコモコタイツ最強伝説が完成した瞬間でした。
やっとタクシーに乗り込み、暖かい車内と帰れる安堵感が得られました。
うつらうつらしたいところでしたが、不覚にもよく話しかけてくるおっさんドライバーだったのです。
ちょいちょい話したら静かになるだろうと思いつつも、
「今年は忘年会シーズンになっても人が少なくて変な年だ」
「いつもはもっと飲んだくれたグループがいて賑やかなんだ」
「知り合いの娘さんが1人で海外旅行に行っちゃって結婚してくれないから困ってるんだ」
「料理できないようじゃ困るだろう」
「今は男の人も料理をするらしい」
などなど、矢継ぎ早に話かけてきます。
ねねは相づちをうって聞きます。
それにしても具志堅用高のモジャモジャアフロを5倍くらい圧縮させて短くしたようなチリチリの頭のこのおっさん、一人称「あたし」って言ったあと「私」って訂正するんだよね。
さっきから「あたし」を2回くらい聞いている。
「あたしは、、私は1人もんだからねぇ。」
「ほら仕事から帰ってなんにもしたくない日だってあるじゃない、そんなときはパックの、ほらCMでよくやってるじゃない、そう、サトウのごはん、あれおいしいのよ~。たまに食べるけど、買って置いとくと便利よぉー」
まぁ独り身のおっさんだからね、サトウのご飯は相棒のようにいつもそばにいるであろう。
独り身って言葉がすごく寂しく心に突き刺さる年の瀬です。
それにしてもまた「あたし」って言った。
aikoが歌う、一人称の「あたし」以上に「あたし」だなぁ。
あっしでも私でもおいどんでもない、「あたし」
このおっさん、「あたし」って言葉が好きなのか、単にaikoが好きなのか真偽はわからないけど、まぁよく喋るわ。
そのうち
「お粥のパックもあるんだけど、それも美味しいのよ、自分で作ると焦がさないようにかき混ぜなきゃいけないからパックでチンした方がいいわ。」
とおばちゃんのようなライフハックを力説してくる。
お粥作ったことあるんだ、このおっさん。
それにしてもよーしゃべるなぁ。ちょっとおねぇっぽいダミ声のおっさんおもしろいなぁ。生活感まるだし。
…。
ふとタクシードライバーのネームプレートの存在に気づき、恐る恐る、見てみると、
〇〇 榮子
と書かれていたのです。
ええええ、え、ええ!
うっわ!
ごめん!榮子さん!
おっさんじゃなくて、おばさんだったのね!
タクシーはねねを乗せてもうすぐ目的地につくという知った道を走っていた。
10㌔20分弱の行路、半分以上レディをおっさん扱いしていたねねの愚行。
レディをレディ扱いするには時すでに遅し。
一人称「あたし」の独り身のレディはよく見たら頭はちりちりパーマを当てているけど、レディのフォルムであった。
「朝7時から夜通し働いて、朝方帰るとおなか空いちゃってついつい食べちゃうの、だからお腹周りがぶくぶくしちゃって困るのよ、がはは」と笑う先にいるのは紛れもなく食べるのだーいすきな少女のようなかわいらしいレディだったのである。
ねねは
「すぐに脂肪が落ちて楽に痩せるならみんなスーパーモデルになってますよ。んふふ。」とレディジョークをかました。
目には目を。
歯には歯を。
レディにはレディを。
ふくよかなレディは「そうね、んふふ」とレディな笑をうかべた。
この広い世界に独り身のおっさんみたいなレディが、これまた独り身のレディを乗せて貴賓館のようなタクシーが夜道をゆく。
夜は短し、車走らせよ、レディ。
短編小説のフレーズのような小さな奇跡。
レディはおっさんではないとわかった瞬間世界は新しくなったのです。
レディをおっさん扱いしていた自分を恥じたのでとびきりレディ扱いします(もう着いてしまったけど)
3,000円ちょっとのタクシー代、それは運賃と言うよりも素敵なレディと過ごさせて頂くための時間賃という気持ちで支払い、「色々と為になる話をありがとうございました。」とレディらしく礼を言いねねは家へ、「あたし」というチリチリ頭のレディはまた客を乗せるため黒いタクシーとともに暗闇に消えていきました。
独り身のレディはそれぞれゆくべき道を進む。
そんな夜があってもいいんです。
我々は独り身かつ気高いレディだから。