足利へ旅してからすっかり銘仙という着物の虜になってしまった。
始めて袖を通したとき、肌の上を滑らかに滑る感覚。今まで着たことのない服の感触だった。絶対に欲しいと思って、再び足利まで出掛けて買ってきた。
柄や色のかわいさももちろんだが、何よりもその着心地に心奪われてしまったのだ。
だから買った。1枚5,000円くらいのをかった。あと1枚、1,500円のも買った。羽織も1枚買った。
アンティーク着物なので多少のシミや汚れは仕方ないものだと割りきっているから格安のものを買える。どうしてもきれいなままの着物がほしいなら新品を買うほうがいい。
ただ、銘仙という着物の色使いや柄は唯一無二のかわいさがある。大正~昭和初期の文明が華開き人々の心が新しい時代に心浮かれていた時代の遊び心を表したかのような美しい着物であるので時の流れと共に多少の劣化も致し方ない。
気になるのはやはし古い布のにおいだ。
樟脳の匂いがどうしても気になるので洗ってみようと思った。
銘仙は絹織物なので基本的には着たあとは洗わず陰干しするのみだ。だけど軽い潔癖症もあるのでどうしても洗いたい。これで万が一失敗して着物をダメにしてしまうかもしれないが、銘仙は当時の女性の普段着であったこと、80年以上が経過しても色鮮やかに形を保っていることから意外とタフな生地なのではないかと思った。
やってみなければ気が済まないし、失敗するまで納得しない性分なのてやりますよ。
検索すれば絹の洗い方というのは出てくるので気になる方は検索を。決してやってみてと勧めるわけではないのでリンクは貼りません。
ここから先は禁忌です。
はい。
中性洗剤を薄めた30℃位の水でしゃばしゃば。
染色料がめちゃくちゃ色落ちして水はあっというまに黒く濁りました。緊張が走る。
すすぎをしてそのまま掛ける。水がしたたる。洗面所はびしゃびしゃだ。
タオルドライをしながらシワを伸ばす。色は思ったほど褪せていないようだ。ホッとする。
水がしたたらなくなったのでベランダに干した。絹は直射日光に弱いらしいので陰干し。
春の爽やかな風に吹かれていい気分だ。こうやって丁寧に洗濯をするのは実は気持ちのいいことなのかもしれない。手間がすごいかかるけど。
禁忌は連鎖する。スチームアイロンをかけたのだ。パリッとした銘仙の生地がしわしわになっているからだ。
スチームアイロンは水気でシミになるらしい。半渇きのときに当てたのでシミにはならなかった。
乾いたので着た。若干の生地のしわしわさがあるが着られないことはない。かわいい。なにより洗ったことで気持ちがさっぱりして着物に触れられる。これはいい。多少の型崩れや糸のほつれもでてしまったがこれは仕方ないと思っている。全ては自己責任だから。ほつれたところは後々どうにかする。
洗ってみて思ったのはもう次は洗えないだろうということ。多少縮みもしたのと絹の光沢が落ちてしまいそうで心配だから。あとは半渇きの場所があったせいかまだちょっと匂いが気になる。陰干しを続けて様子をみようと思う。
着てみて思った。
銘仙最高…。
色や柄のかわいさは何度も言うが、着心地がとにかくいいのだ。
- 軽い
- 肌当たりがいい
- 着崩れしにくい
- 足捌きがいい
- 春の夜の気温でもなぜかぽかぽかと暖かい
着てみて驚いたのはぽかぽかと暖かいのだ。とても薄い生地だが着るとふわっと暖かさに包まれる。お風呂上がりのような体が弛む心地よさがある。そりゃフリースとかの方が暖かいが春の夜の気温くらいならしのげる。羽織も羽織っているのに全然軽い。コートを着るより体が楽。いつも肩こりに悩まされているが肩周りが軽いからか肩こりが気にならない。
帯で姿勢がしゅっと正されているからというのもあるかもしれない。
足捌きもよく、大股でもすっすと足が出る。足にまとわりついてくる着物がこれまたするすると滑って気持ちいい。
銘仙、着心地が完璧。帯の苦しさも慣れれば気にならずこの肌当たりが気に入ってしまったのでお出掛けのときに着物というのもアリだなと思った。
足元は下駄になるので、親指と人差し指の間に鼻緒が入り、指が開いて外反母趾の足にはちょうどいい。ヒールがないので窮屈さもない。下駄をはいているだけで足が浮腫まない。
外に出て歩くときに同じ服を来ている人がいないのもいい。流行りのブランドの同じ服を着ている人を見かけたときの絶望を味わうことはないのだ。
自分が好きな服を着ているだけでとても楽しい。
いつもと違う色違う柄違う形というのは、こんなに刺激的なのか。
かわいい格好をしているから少し長く外に出ていたくなるしたくさん歩きたくなる。たかが着るものかもしれないが、こんなに気持ちを高めてくれることもあるんだなとしみじみ思う。33歳になって服が徐々にベーシックなものに移行していくなかで鮮やかな色や柄物を着たときに、しまいかけていた乙女心が揺さぶられて色めいてくる。
服はいくつになっても好きでいたい。かわいいものを着たい。あと何年生きるかなどわからないので好きなものを遠慮なくなるべく多く着ていたい。
大正や昭和の人たちが楽しんだように楽しんでいいと思う。特別なものではなく普段着だったのだから。そんなラフな感覚で着物を着ることをもっと身近にしたい。気長に着物と付き合っていこうと思う。