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美人画が大正ロマンが動き出す世界『肉愛でる姫君』について

崇山祟という漫画家がいる。とても不思議な来歴の持ち主で、チャーミングな漫画家だと思っている。

この夏『恐怖の口が目女』という漫画を出している。

https://www.leed.co.jp/9784845851935
[https://www.leed.co.jp/https://www.leed.co.jp/9784845851935
株式会社リイド社 » 恐怖の口が目女:title]

平成最後の奇書、ネオレトロホラーと称され読んでみるとホラーでもありSFでありファンタシーでありアートである。どんな漫画?と聞かれると形容しがたいし、ネタバレになるので説明するのが難しい。怒濤の展開に一気にのまれとにかく夢中になってしまう漫画である。崇山祟ワールドにすっかりハマってしまうのだ。Web漫画の単行本化というのは1回読んでいるから買わなくてもいいか、と思われがちだが恐怖の口が目女については紙でパラパラとページをめくるごとに急展開していくストーリー、本編とは別におまけ漫画、そして崇山祟先生の数奇な来歴についても書かれているので紙で読むことをお薦めする。

 

崇山祟ワールドについては以前にも書いている。


崇山祟という末恐ろしいアーティカルな漫画家を知れ - ここから先は私のペースで失礼いたします

 

 

崇山祟ワールドの特に好きな作品は『肉愛でる姫君』だ。同人誌として発売されている。
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 この大正ロマンチックな装飾、岩波文庫のカバーをめくったときの色合い風合い雰囲気。ちょっと不思議なフォント。どれをとってもいいとしか言い様のない一冊だ。

 

主人公はこの美しいお嬢様。リボン結びとか着物の着こなしとか目線とか傘を持つ手の仕草とか。美人画のようで漫画のワンシーンとして流して読んでしまうには惜しい美しさがある。
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お嬢様のどこも見ていない虚ろな視線と豪華な椅子や佇まいがなんだか美しさを際立たせる。姫君と呼ばれるにふさわしい浮世離れした感がある。
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 この中振り袖丈がすごくかわいい。
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実際に菊模様の銘仙の羽織があったので見比べてみるとあるある、本当にこんな柄ある、と言わんばかりの柄を描いていてすごいなと思う。

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大正~昭和初期の鮮やかな色や模様は個性的で強くてかわいい。諸外国の影響もさほど受けず織りと染色だけで表現した日本独自のものだろう。今の感性とは違う時代に作られたものが今でも十二分に美しい。

この漫画のすごいところはお嬢様の装いがそんな大正レトロのよさをズバッと射抜いているところで着物とか和の柄が好きな人にはたまらないと思う。ストーリーもさることながら大正~昭和初期の時代がよく作り込まれている。
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 ちょっとしたコマのちょっとした装飾が点描画。花のモチーフ一つとっても、すずらん芍薬か薔薇のような凝ったデザイン。これを一つ一つひろって見てるだけで一日終わってしまいそう。

 

お嬢様に恋してしまう男がいる。

丸眼鏡でひ弱そうで思うことをうまく言えないような風貌の男だ。文明開化、富国強兵、時代が活気に溢れていた頃にひっそりと本を読んだりしながら生きていた人もいるだろう。
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イメージとしては夏目漱石のこころに登場するKだ。きっとこんな風貌だったのではないかと思う。

力強く働くでもなく酒に明け暮れるでもなくただただ毎日を細々と生きているような人間。根性とかとは無縁な人間。だけど心の内では燃えるような何かを抱えている。外からは見えないものを抱えている。そういう人が恋をしたときどうなるか。

12ページに詰まったありきたりではない恋の行方を燃えるような何かをその衝動をとくとご覧あれ。 

 

 

同人誌となるので書店で売っていないのが残念なのだが明日フェチフェスで崇山祟先生ご本人が販売されるとのことで興味のあるかたはぜひ行かれてみてほしい。

 

 あとイラスト販売もあるので、崇山祟先生の絵が好きというかたはぜひ描いてもらうといいと思う。