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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

一生かけても落とせない人

先日もう会うこともないだろうと思っていた人と会った。私の一番好きな人ではない人だ。


あなたはもう私の1番好きな人ではないのです - ここから先は私のペースで失礼いたします

 

一番好きだったその人は他所で恋人を作り私の恋心は見事に砕け散った。一生かけてもどんなに努力しても落とせなくて、私が私である限り愛されることはないのだなと思った。

好きな人に好いてもらえないことはなんとも切なくて惨めで苦しいものなのだろう。何度もそんな思いを繰り返していたら恋というものから距離を置くようになっていた。

恋愛から遠い場所は毎日穏やかだ。愛されない不安や寂しさがない。自分の為だけに生きていられる。いつ何をしても何にときめいても何をどうしようもなく好きになってもいいのだ。愛される喜びはもちろんあればうれしいがその喜びについて回る感情もあるので、愛がある生活もない生活もプラマイゼロのような気がする。恋愛経験値が負のベクトルに向いてしまった女の言うことなので全ての人に当てはまるわけではない。恋愛で幸せな人はどうかそのまま幸せでいてほしい。

 

私の一番好きだった人は仕事の都合で遠くに住んでいる。元々は東京にいて東京で出会った。東京に戻ってくるのは年に数回でこの連休で戻ってくることにしたらしい。東京の友人たちと会い、最終日に私に会いたいと申し出があった。

会いに行くのはすごく悩んだ。他所で恋人を作った人に対して私の友人たちは「二度と会うなそんな男」と怒った。きっと今回会いに行くのを相談したら会いに行くのはやめろと言われただろう。誰にも相談せず会いに行くことにした。

 

待ち合わせの駅は以前約束をすっぽかされ終電のなくなったファミレスで一晩を過ごすはめになった駅だ。東京タワーの見えるその駅は久しぶりに来たけど何も変わっていない無機質な駅だった。

 

約束の時間に遅れていく。わざと遅れた。約束をすっぽかされた日の恨み分の時間遅く行った。

 

人混みの中から彼を見つけたけど声をかけるのをやめ見つけてもらうのを下を向いて待った。ひょうひょうとした態度で彼はやってきた。

 

今回彼が東京に来たのは全くのプライベートで他にも用事はあったが一番は私に謝りたかったとのことだった。

なぜ、彼女を作ったか。それは近かったかららしい。なんて単純な理由なのだろう。「あなたは心が弱いのね」と言った。「そうだね」と返事された。

 

きちんと向き合って一緒にいられたら私も恋人にしてもらえたのだろうか。距離とは残酷なものである。近くにいられる運がなかったのか縁がなかったのか。

近いもの勝ちだよな、ずるいよな、と思う。私は離れてしまえば愛されない程度の女だったのだろう。

 

終始不機嫌な態度をとってしまった。もういい人に思われなくていいから。

 

「この夏はどうしてた?」と聞かれたとき色んなことをしたなと思った。私の一番好きだった人がいなくても、私の夏はとても充実していたし楽しかった。「色々出掛けて楽しかったよ。」とだけ言った。私はあなたがいなくても行きたい場所に行ける私が好きだと思った。

 

私の一番好きだった人は「ごめんなさい」と言った。目を見るとばつの悪そうな視線を寄越して目をそらした。

「会ったらやっぱり好きだと思った」と言うので「そうでしょうね」とだけ返した。

私の一番好きだった人にバカだなと思った。世界で一番この好きは無効だ。恋人を遠くに残してやってきて私に好きだと言うなんて。時間を巻き戻しても私たちは恋人になれない。

もう二度と手の届かないとこにいようと思った。それこそあなたにとって一生かけても落とせない人に。年齢を重ねて肌は弱り体は衰えて若い人に劣るし、出会った頃のような若さもなくなっている自覚はあるけども、最大限に美しくある努力はしていたい。どこにでも行ける強さを持っていたい。世界一楽しく暮らしていると思っていたい。負け惜しみかもしれないが私の強さというのはそういう悔しさが作り上げたものだと思っている。