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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

泣いているあなたのそばで

今日道端に泣いている女の子がいた。彼氏と思われる男の子が頭をよしよしとしながら寄り添っていた。なんであのこが泣いていたかは知らないけど、道端だろうがどこだろうが堪えきれないほどの泣きたくなることがあったのだろう。嫌な顔せず男の子は涙を受け止めていて優しい世界だなと思った。

 

最近人が泣くのをよく見る。

先日職場のおばちゃんが泣いていた。

私はこのおばちゃんがとても大好きで、今の職場に入職してからとてもお世話になっている。10月で異動を言い渡されこの野郎ふざけんなと悪態もついたが、このおばちゃんと一緒なら異動でもいいかと思えた。

仕事ぶりは真面目て誰にでも優しく穏やかを絵に描いたようなおばちゃんだ。

ヘルニア持ちで、たまに「あいたたた~」と動けなくなっている。私が病み上がりで出勤すると「ねねちゃん、大丈夫だっだぁぁいちたたたたた~私の方がだめね!はぁ~腰が…」なんでおばちゃんジョークをかましてくる。そんなところがとても愛らしくて好きなのだ。

 

あまりにも穏やかなので、きっと色んな人生経験をしているに違いないと聞いたら予想以上に壮絶だった。

おばちゃんは若い頃父親を癌で亡くしている。周りの女の子たちは恋や結婚出産をする年頃に癌で治療する父のサポートをして病院と職場と家の往復だったらしい。高額な治療費、告知しない当時の治療方針、進行する癌、繰り返す入退院、手術、放射線治療、それを乗り越えて訪れたのは父の死。

癌とはなんて非情なものだろう。

手術を終えリハビリをするもどんどん元気がなくなる父がある日「なんでおとうさんこんなに頑張ってるのに良くならないのだろう」とわんわん泣いたらしい。父の泣く姿を見て「もー何言ってるの」と励まし病室へ送り届けたあと堪えきれずに病院のトイレで泣いてしまった、と話すおばちゃんは笑っていた。我慢して涙を堪えてトイレで泣いたことのある人の強さだなと思った。誰にも見せられない涙というものはこの世にあって、トイレでこっそり泣いたことのある人にしかわからないこともあるのだ。

きっとこのおばちゃんの優しさや穏やかさというのはこの経験からきているのだろう。

 

 

異動先はずいぶん意地悪な人が多いと噂に聞いていた。異動した人は「毎日歯を食い縛ってやってる…。」と言うほどキツい物言いをする人がいるらしい。

おばちゃんもその意地悪な人に当てられたようだ。悪いこともなにもしていないのに「も~ムカつく!」と聞こえるように嫌みを言われたりため息をつかれたりしたらしい。

 

40歳を越えても意地悪をする人はするし、下らないと相手にしなければいいけども実際当てられるとやはし心は折れる。

好きで異動したわけでもないし、意地悪をされるような仕事はしていない。大人の世界でも、仕事場の世界でも理不尽なことは多々存在していて、それに耐えきれず退職する人もいる。

 

意地悪をする人がいる限りまともな人は馬鹿馬鹿しいと辞めていくし、残った人は相当我慢しているか意地悪な人に可鍛している。だから年々意地悪が抽出されて濃くなっていくような気がする。働き手を失いたくないがために管理職は見て見ぬふりをする。

人の顔ってその人のことをよく表していると思う。穏やかな人は穏やか優しい顔に、意地悪な人は恐い顔をしている。そんな恐い顔の人たちばかりで陰湿だなと思う。

 

そんな意地悪に押し潰されて私の大好きなおばちゃんは帰り道泣いていた。

今日どんなことがあったか、こんな意地悪を言われた。それを話ながら歳が一回り離れた私に目頭をタオルで押さえながら話した。悔しくて悲しくてやり場のない怒りが溢れてきた。

 

なぜ優しくていつも一生懸命なこのおばちゃんがこんな嫌な思いをしなくてはならないのか。私は泣いているおばちゃんの話を聞くことしかできなかった。このおばちゃんと同じ歳くらいなら「ご飯いこ!どっかいこ!あいつ最悪!愚痴聞くよ!」と誘える。

このおばちゃんのことを大切に思うパートナーならそっと抱き締めて「いつも頑張ってるの知ってる」とおばちゃんの好きなとことか素晴らしいところを1つずつ話して暖かいココアを用意して手を繋いで眠る。

あのときに戻れるということがあるならひとりでトイレで泣いていたおばちゃんにあなたはすごいよ、と背中をさすってあげたいくらいだ。

 

このおばちゃんの上司なら「それはよくない」と意地悪をするおばちゃんに制裁を加える。

 

だけども私は一回りも年下のふがいない職場の後輩なのだ。おばちゃんのプライドもある。「こんなみっともないとこ見せちゃって…」とまた泣いてしまった。

これは私も悲しくて仕方なかった。いつも頼りにされているおばちゃんからしたらみっともないと思ったのだろう。みっともないことなど何一つなかった。当然の涙だった。

肩をたたいて「も~そんなこと言わないで下さい」と話を聞いて解散した。後日「年下のねねちゃんにあんな姿見せちゃってごめんね」とメールがきた。「そんなこと言わないで下さい」と返事をした。

 

泣いている人の側にいることというのは難しい。改めて思った。なぜ泣いているか、理由はよくわかる。なんて言葉をかければ、なんて行動をすれば、何一つわからない。けど泣いているおばちゃんを放ってはおけない。あなたは私の大切な職場のおばちゃんだから。あなたに救われたことは多々あってあなたがいたから私はここまでやってこれた。あなたの誰にでも優しいところは誰にとっても救いでそんなあなたを尊敬しているし好きなのだ。

ただ聞くことしかできないふがいない私で、あなたにもらった優しさを微塵も返せていないけどこれからも一緒に働いていきたい、そんな大切なおばちゃんなのだ。パートナーでも友人でもない、金魚の糞のようにいつも後ろであなたのことを見ている私はあなたのことを大切に思っている。あなたがいつも幸せで楽しくあってほしい。

 

もはや願うことばかりとなっているが、今度は飴かキャラメルをあげようと思う。一緒に甘いものを食べて明日も頑張りますか、負けない負けない!と励まし合っていこう。おばちゃんの好きな飴を教えてもらおう。いつだって買って鞄にしのばせておこう。

泣いているあなたのそばで。

私はなにもできないけど誰よりもあなたの幸せを願っている。尊敬するあなたのように働いて誰かの生きるそのときを救うのだ。