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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

師長と帰る

誰かと一緒に帰るのがとてつもなく嫌いだ。仕事の帰り道、飲み会の帰り道、学生の頃は学校の帰り道もひとりで帰りたかった。よほど仲のいい友人やこの人と喋りたいと思った人とは帰りたいが、用事が済んだらそこから先は私の時間。会話を途切れさせないよう気まずくならないよう神経を尖らし帰るのはめんどくさいのである。なんなら仕事や飲み会の間、帰りどこに寄るか、何を買って帰るか等を考えているのでそのプランを妨害されるのも苦手だ。だからサーっと逃げるように帰る。飲み会なんかでは輪に入れる気がしないのもあって終電などまだまだ余裕な癖に「埼玉県民だから!」と言って走って帰る。帰ることに関しての執念がすごいのだ。

 

それでもひとりで帰れないこともある。先日帰ろうとしたらイケメン師長(私が異動したため現直属師長ではない)とばったり鉢合わせてしまったのだ。

男子トイレの前からゴォーーーーとハンドドライヤーの音が執拗に聞こえていたので「これは師長さんだな」という気配は感じていた。この気配というのは小さな職場だと誰がどの気配かというのをキャッチしやすい。この人の字、この人の匂い、この人の足音、喋り声。少ないスタッフ数なのである程度把握している。イケメン師長に関しては数少ない男性ということもあり10m先くらいから気配を感じる。今回はたまたまハンドドライヤーが執拗、という気配だった。

 

タイムカードを切り全力で帰ろうとしたが見事にバッティングし、職場の話や異動したおばちゃんの話をしながらなんとなく一緒に帰ることになったのである。あくまでも自然に、帰りましょうとも言わないで帰る流れになったのはイケメンの所作なのか。わからない。苦悩する。イケメン師長も多分ひとりで帰りたい人だろう。なるべく早足で、話したいことを早口で話す。異動したフロアでうまくやってるじゃんなどと言われ、そう見えるようですけど大変なんですよ、と返す。師長さんの方こそ大変そうですね、と言うとほんと大変、と返ってくる。愚痴ばかりではあるがたまにはこういう愚痴も必要なのである。

 

異動先のキツいおばちゃんたちを見ていると自分があぁならないように気を付けなきゃと思います。なんか勉強させてもらってますよ、色々と、と言ったら笑っていた。異動が嫌だ嫌だと言っていた私を知る師長から見ればあまりにも前向きで驚いたようだ。一時はまだ若いんだしこんなところにいるべきじゃないよ、もっといいとこ行きなとアドバイスをくれたこともあったのでそれなりにやっている現状で心配することはないと思ったようだ。

 

愚痴ばかりになってしまったのでまぁおもしろい話でもひとつしておくかと思い、「この間お告げが聞こえたんですよ、肛門科に転職しなさいって。いや、今までお告げなんか聞こえたことないですよ?でも聞こえたんですよね」と話したらウケていた。師長はおおむねいい人なので「肛門科はまぁいいと思うよ?いいんじゃない?」と笑って若干引きながら応援してくれた。そうとなれば肛門科の募集を探さないとな。

 

そこで駅についたので解散した。肛門科の話でフィナーレを迎えた我々の帰り道。イケメンと並んで歩くのはとても勇気がいった。髪の毛はボサボサだし、汗くさいし、顔の血色は泥のようだったのでコンディション最悪の状態でイケメンと歩いたかと思うと少し悲しくなった。これからは帰り道でも口紅くらいさしておこう。

 

久しぶりに異性と並んで歩いたから変な汗がどばーっと出た。異性と並んで歩くのがこんなにも緊張するものなのか。臭いって思われてたらやだな。やっぱひとりで帰るって最高だな。それでも人生で1度あるかないかのシチュエーション、イケメンと帰るというミッションはクリアしたのでもう思い残すことはありません。