ずっと憧れていて行きたかった場所、私にはそんな場所がいくつかあってそのうちの1つがホテル富貴のローマの部屋だった。実際にこの部屋に行ってみて「うわぁ…」と感嘆するばかりだった。それほどに見たことのない甘美で不思議な世界が広がっていたのである。
202号室のドアを開けた瞬間、その世界に飲み込まれる。
覚悟してほしい。
ハッとする廊下。
振り返ってももう遅い。
あとはもうこの世界にどっぷりと浸かるだけ。
光を。
もっと光を。
消さないでくれないか。
この世界をもっと見ていたいから。
ゆらゆらと射す薄明かりの先。
鏡に映る自分の姿を見て本当にここにいるのだと知る。
少しだけの現実はここに置いておいて。
あとは夢の中でいい。
そこは噂に聞いていた以上の赤い世界だった。
不思議な形のこの浴槽。
ここは昼間がいい。日の光が射すのがいい。
この色を自然光で見ておきたいから。
昼間にお湯を張ってお風呂に入る贅沢があることを知るにはここがいい。
オーロラタイルの光は手に取れないからここで見て。
変わった形でもきちんと入浴ができるように作られている。
本当に本当に光がいい。
のぼせたら休めるからここで冷たいジュースでも飲んで。
洗面所は馴染みのある形。鏡に映る赤が見た夢を思い出させる。
丸いガラス窓の先には、
トイレがある。
潜水艦でもぐって竜宮城に来たらこんな世界が見えたりして。
あぁ、帰りたくないよ。
ずっといられないのは分かっているから言わせて。帰りたくないって。
さよなら、赤くて甘美で夢のような世界。
いつかまた、いつかまた来るから。