人生のうちいつか行ってみたいと思っている場所はいくつかあって、その中のひとつに『元遊郭の旅館』があった。
昭和32年(1957年)、売春防止法が成立し、昭和33年4月1日の同法の施行と共に公娼地域としての遊廓の歴史は完全に幕を閉じている。『遊郭』というものはもう存在しないが当時の建物が旅館や料亭になっている場所がいくつかある。他にはない独特の建築洋式はこの目で見て体感したい。佐賀県武雄温泉にしらさぎ荘という『元遊郭の旅館』があることを知の冒険というサイト↓で知りここに行くことにした。
楼門で有名な佐賀県武雄温泉にある元遊郭旅館「白さぎ荘」に宿泊し、その全貌を取材した!
予約は電話にて。インターネットで誰とも話さずに宿の予約ができる時代に電話をかけるのは少し緊張した。すんなりと予約がとれほっとする。
佐賀県武雄温泉駅。駅員さんが切符を回収する駅。Suicaは使えない。昭和から平成中頃へ帰って来た気分。
しらさぎ荘まで駅から徒歩10分程。途中にファミリーマートが2件あった。歩いている人はほとんどいない。この寂しさが心地よかった。
武雄温泉楼門を少し過ぎたところにしらさぎ荘はある。青い屋根の建物だ。
外観からは遊郭に見えない。昭和の民宿といった感じ。
ひとたび扉を開けてしまえばそこは
目眩く赤の世界。興奮と感動が一気に押し寄せる。
すみませんと声をかけると少しして宿の人が出てきて2階の部屋へ通される。「階段が急なので気をつけて下さい」の階段が本当に急すぎてロングスカートの裾を踏まないよう気を付けた。
鳥の名前の部屋が続く。
私の部屋はうづら。窓際の部屋だ。
普通の和室。広い。
窓の模様がおばあちゃん家みたいだった。
避難はロープで!
難易度高め。
窓を開ければ楼門が見えるいい眺めの部屋。
浴衣とフェイスタオルが1枚。
お茶セットもある。
夜はこの和室に布団が敷かれるのかなと思ったら奥になにやら小部屋が見える。
あ!
まさかのベッドルーム!
てっきり布団だと思っていたのでとんだサプライズだった。
トイレ洗面所も共有かなと思っていたが部屋についていて驚いた。
砂壁、タイル、和式トイレ、全部昭和で時代を感じさせるが清潔に保たれているのでうれしい。
凝った造りの照明、すごく好き。
「旅館内の写真はどうぞご自由に撮っていってください」と言ってくださったのでお言葉に甘えて写真を撮りまくる。
3階への廊下。
鎖が気になるところだがなんでついているかは旅館のご主人もわからないとのこと。手すりがわりなのだろうか?
上から覗くとかなりの勾配。気を付けないと落ちそう。自己責任!
3階にも部屋がいくつかある様子。
お手あらゐ。
洗面所のタイルが完全に好み。永遠に残してほしい。
3階の窓から中庭を見下ろす。
中庭があると特別な場所に来た気分になる。当時の遊郭に来た客もそう思って心を踊らせたりしただろうか。
再び2階へ。
赤い絨毯の廊下は雰囲気がいい。
共有トイレ洗面所にの床がTHE昭和。こんな素敵な床他ではなかなか見られません。
共有トイレには洋式トイレもあるのでご安心を。
この鏡を覗いたらタイムスリップできたりして。
奥にも部屋がある。全部で何室あるか聞いておけばよかった。
共有トイレの横を抜け1階へ。
これが噂の太鼓橋。緩やかなアーチが美しい。
先ほど見下ろした中庭を見上げる。
回廊を行き来する遊女や客はぼんやりと中庭を眺める時間もないだろうけどふと視界に入る植物や空があるのは贅沢なことだ。
木の格子っていいなとつくづく思う。
これは…もしかしたら陽が沈んでからの方が雰囲気がいいかもしれない。またあとで写真を撮りにくることにした。
夜の帳が降りる頃、
赤が一段と映える。
中庭は夜に本領を発揮した。
文字が書いてある。
以義為利利自?
利をもって利となさず、義をもって利となす、のことだろうか。写真を見返して気になってきた。またいつか行くことがあればもっと良く見てみよう。
ちなみにお風呂は1階にある。1ヵ所しかないので入るときに男湯か女湯の札をかけて入るようだ。鍵もかけられるようなのだがどう入るかシステムがわからなかった。誰もいないときにこそっと写真だけ撮る。
洗い場は4ヵ所。シャンプーとボディソープはある。
浴槽は広い。ライオンの口からジャバジャバお湯が出ていた。
脱衣場も広々している。
しらさぎ荘の目の前には武雄温泉の公衆浴場があるのでそこで入浴を済ませるのもいい。お湯は無色透明だがとろりとしていて肌がすべすべになる。私は公衆浴場でお風呂を済ませた。
夕食を外で済ませお風呂に入ってご機嫌で宿に戻る。あのベッドで眠れるかな、夜中目が覚めて怖くて眠れなくなったらどうしようという不安があったが疲れていたのか朝までぐっすり眠ってしまった。
翌朝。
朝食は宿で食べた。お茶がやたらとおいしくぐいぐいのんでしまった。
食堂には誰もいなかった。隣のとなりの部屋に泊まっていたおじさんは朝早く出掛けたようだ。すでにチェックアウトしていた。
支度を済ましチェックアウト。
宿のご主人が昔の写真を見せてくれる。ここらへん一帯は遊郭だった歴史を軽く話してくれた。(詳しいことは冒頭の知の冒険のサイトを参考にしてください)
昭和23年。この10年後に遊郭が廃止になるなどこの写真の中の人たちは想像できただろうか。
当時の遊郭のことを知る人もほとんどいないだろう。ご主人は「ここはもう私の代で閉めますから」と言っていた。寂しい気もしたが止めないでくださいと無責任なことを言えるわけもなく寂しそうに「そうですか…」と答えた。
いつなくなるかわからないからこそ今のうちに訪問できてよかったと思う。快く泊めてくれたことに感謝している。
いつまでも同じようにあると限らない。現代にまた同じような建物を作ることも不可能だろう。歴史のある場所は気になったら1日でも早く行った方がいい。明日また同じようにあると思ってはいけない。またいつかここに来られるだろうか。できればまた行きたい。それほどに素敵な場所だった。
武雄温泉しらさぎ荘 2019.11月訪問