佐賀には武雄温泉という温泉地がある。佐賀と言えばですぐに浮かぶのは呼子のイカとか伊万里焼とか嬉野温泉だろう。武雄温泉、まずなんて読む?というところから始まる人の方が多いと思う。たけおおんせん、と読む。
私は佐賀に温泉があることすらピンとこなかったし、武雄温泉はなんて読むのか分からなかった。しらさぎ荘に泊まることになり武雄温泉に行ったのだがついでに行くには惜しいくらい素敵な場所だった。教えたくない秘密の温泉地と言ってもいい。それくらい気に入った武雄温泉潜入レポートである。
武雄温泉について詳しいことは↓下記のサイトが見やすくていい。インターネットでもあまりヒットしないほどマニアックな温泉地なのだ。
https://gurutabi.gnavi.co.jp/a/a_2173/
佐賀空港からバスと電車を乗り継ぎ小1時間ほど。私は福岡空港から特急電車で1時間強かけて行った。自動改札機のない小さな駅。交通ICカードは使えない。
駅前のキオスク。NEWDAYSじゃない。お茶を買った。キオスクがノスタルジックな気持ちにさせる。
駅から15分ほど歩けば着くらしい。大通りを行く。それにしても誰もいない。車はまぁまぁ通るのに人を見ない。観光地なのにバスや団体ツアー客、スーツケースを持ち歩く人がいないことが私には心地よかった。
世界に自分しかいなくなった感覚になりてくてく歩くと武雄温泉の楼門が見えてきた。
佐賀のお風呂テーマパーク。
レトロでフォトジェニックでロマンチックでノスタルジック。
それもそのはず、日本近代建築の父、辰野金吾の設計なのだ。
あの東京駅丸の内駅舎と同時期に建築されており、東京駅ドームに8つの干支のモチーフ、武雄温泉楼門に残りの4つの干支のモチーフがある。辰野金吾の遊び心だったのだろうか。東京と佐賀がこういう形で繋がっているのは面白い。建築から100年以上経った今でもこの建築物たちに心を惹かれる人がいるとは辰野金吾当人だって思ってもみなかっただろう。自分の仕事は何年先でも色褪せない魅力があると思って設計していたかもしれないが。
楼門をくぐるとまずは元湯と蓬莱湯がある。公衆浴場だ。
券売機でチケットを買って中に入るシステム。普通の銭湯のよう。湯温が高め。元湯はあつゆとぬるゆがあるがぬるゆで42℃って…笑。
元湯は明治9年に建築されたレトロな浴場。蓬莱湯は比較的新しい。せっかく来たなら元湯に入りなと薦められ元湯に入る。ぬるゆは42℃。足だけ浸かり寒くなってきたら肩までつかるを繰り返しのんびり入る。あつゆは5分入ってたらのぼせそうだったのでほどほどで。ややとろりとしたお湯は肌にまろやかにあたる。無色透明無臭の温泉だが入った瞬間確実に「肌がすべすべになる!」と確信する温泉だ。
シャンプー、ボディソープ、ドライヤーは置いてあり、有料レンタルタオルもあるので手ぶらでも行ける。
ひとっぷろ浴びたら終わりじゃない!まだまだ武雄温泉は楽しめる。実は鷲乃湯という施設もあるのだが今回工事中で入れなかった。どうやら露天風呂やサウナまであるらしい。工事が終わってらすぐにでも行きたい。行かれた方は感想を教えてほしい。羨ましがってしまうだろう。
奥には新館がある。
朱と白のコントラストが美しい。
現在は歴史博物館として中を解放している。ちょっとしたお土産屋さんと陶芸体験教室、昔のお風呂などが見られる。
まずは2階へ。
中央の窓から楼門が見える。額に入れたかのような見事な眺め。さすが辰野金吾設計。
窓はむかしガラス。歪みのあるガラスに残っていてくれてありがとうと言いたい。
1階の廊下には当時使われていた広告や鏡が展示されている。味のあるフォント。4桁の電話番号。今にはないもの。
大きな窓から射す夕日。日がくれたらこのまま消えてなくなりそうな世界。
小さめの浴室。
十銭湯。
すごいよ。
マジョリカタイル。
このかわいらしさ、国宝級。いいな、こんなお風呂。毎日入ってウキウキしたい。
天井も完璧な美しさ。湯に浸かって見上げたらどんなに気持ちいいことだろう。
続いて五銭湯。
この温泉マークは看板だったものを展示用にここに置いているらしい。
五銭湯のようなマジョリカタイルではないが白と朱色の市松模様がかわいい。
階段があるのでおりて浴槽に座ってみた。
天井は吹き抜けのような不思議な小窓がついている。日の射すお風呂の気持ちよさを知っている人が作ったんだな、ここは。
事前に電話連絡すれば特別貸しきり湯も見られるという。マジョリカタイルの素敵なお風呂があるらしい。
楼門も新館も夜にまたおいで。
光を手に入れてしまったらもう暗闇には戻れないよ。
その灯りを絶やさないで。
いつまでも。
いつまでも見ていたいから。
あぁ、振り返ってもここにもっといたかったな。なんとなく行ってすごいなと思って帰ってきたけど本当にすごいものだったんだ。
新しいものはいつだってきれいで清潔で使いやすくていい。だけど古いものをいつまでも末永く使うためにかけられた手間、守ろうとする人の心というのは古いものにしか寄り添わない。それをロマンだと言い私は見て感動して写真を撮る。見渡す限りロマンで溢れている。新しい時代を重ねても重ねてもこの場所の美しさは変わらないだろう。この時代を生きてみたかったと少しだけ思いながら記録を残す。
2019年11月訪問 武雄温泉