今夜場末のホテルで
そんなタイトルがつけられそうな、昭和の残り香が漂うホテル、「赤い靴」。 少しだけ昔のきらびやかな世界は色褪せながら今も輝く。その鈍い光に誘われて私はホテルの門を潜った。
小岩駅から徒歩3分。辺りはイトーヨーカドーがあるいたって普通の商店街だ。
一歩裏道に入るとこの通り。
生活の場に当たり前のようにあるラブホテル。日常とエロスが混在する街。
黒字に赤と緑の文字。淫靡な雰囲気を感じるのは字体のせいか、ご休憩、ご宿泊の文字=ラブホテルと認識する私のせいか。
オーロラタイルにミューズの出迎え。
白熱灯の色が私を誘う。
フロントパネルに鍵が刺さっている。入りたい部屋の鍵を抜いてフロントに出す。奥からおじさんが出て来て「お姉さん卵焼き食べる?」と聞かれた。おいしそうなだし巻き玉子だったが、お腹はいっぱいだったので遠慮した。フロントの人の顔が見えるアットホームなラブホテル(…?)昔はこういうスタイルが多かったのだろうか。
フロントで支払いをし、部屋の鍵とテレビのリモコンを受けとる。301が手書き。心が「こいつは本物だ」と高ぶる。
早く、早く部屋へ。
部屋数の少ない小さなラブホテルの3階。
赤い扉の先にあるのは昭和だろう。 間違いなく。
スリッパに履き替えて…
部屋の電気をつけたなら
そこはやはり昭和だった。
円形ではあるが回転ベッドではない様子。
鏡張りだっただろうベッドヘッドは赤い貼りがされている。それでもこの昭和は色褪せていなかった。
装飾も円形の布団も見事である。
ふたりで寝るには広いか狭いかはわからない。
窓はなぜか
ファインディング◯モだった。
懐かしっ…。むしろ◯モの方に懐かしさを感じる。
窓を開けると向かいのホテルが見える。
赤いソファー。
赤い自販機。
赤いマッチ。
赤は赤でもなぜこんなにも愛らしくレトロなのか。
自販機は何も入っていない。開けたらちょっとだけくさかった。
お茶スペース、缶切り必要?栓抜きとしての活用か。
クローゼットの中にはガウンとタオルがある。
水回りは清潔。丸い鏡がなんだかいい。
浴室にも光が射す。窓がある部屋はいい。
こじんまりとしたピンクの浴室。
アメニティはシンプル。
バスタブはリフォーム済みか手すりがついて安心設計。
お手洗いは不思議な柄。
柄オン柄。
これくらい派手にやってくれると楽しくていい。
光の調節をして昭和の色を灯して。
ずっとここにはいられないけどまたいつか来るときまた同じ色をしていて。
わがままかもしれないけど。
そして私は令和に帰る。あなたはここで昭和のままでね。また会いましょう。
名残惜しくて振り返る。ベランダには誰もいないけど手を振りたくなったのはノスタルジックな気持ちになったから。
2019年12月訪問