女子高生にはもうなれない。
当たり前のことである。
32歳のねねはもう15年以上前に高校を卒業している。
ねねが女子高生になれるとしたら夢の中だけだ。
今朝の夢。
「今度から秩父の高校に通うことになる」とのことで、女子高生になろうとしているねねがいた。
いやいや、年齢が!それにもう卒業してるし!
という常識が一切通用しないのが夢なのでそこらへんは理解して頂きたい。
「秩父の高校~?」「どうやって行くの?」「車じゃないと無理じゃない?(自分で運転するつもり)」「電車だとどれ位かかるか調べなきゃ」「制服は?」
夢の中の癖に案外現実的で自分が女子高生になる気まんまんでいる。
「あれ、女子高生?いやもう社会人だから。秩父の病院に務めるんじゃないっけ?」
秩父を推しすぎている。秩父には縁も由もなく一度三峰神社に行ったことがあるくらい。埼玉の僻地、とても遠いイメージしかないのに何故こんなにも秩父に固執しているのだろうか。そうか、イチローズモルトという秩父のベンチャーウィスキーに魅せられてるからか?あれおいしいんだよなぁ。
「秩父の病院に研修に行ったじゃん~」
夢の中で研修を受けるシーンがありそれを更に夢で思い出していたようだ。そうだ、もし何かの縁があって秩父に行くなら社会人としてだ。女子高生なわけない。
「いやでも高校だわ。高校の教科書揃えなきゃ」
いや。まてまてまて。どれだけ女子高生になりたいのか。戻ってきちゃったよ、こっちに。永遠になれない女子高生になりたがりすぎてる。
「いや、でも遠くて通えない。お母さん、もう学校行けないから入学断ってよ~!」
ここら辺でもうイライラしているねね。学校遠いなんて新幹線通学でもしないとやってられんわ、みたいな。でも学校と自宅の距離感はまだ調べられていないので分からない。調べよう調べようと思っても調べられない。
そうこうして焦った気持ちのまま目覚ましがなり起きることになったのだが、とても疲れた気持ちだった。
なんだったんだ、あの夢は。とても疲れた。
起きて支度をして満員電車に乗り込んで、ねねが通っていた高校の制服の女子高生を見かけ、遠い後輩だなと遠い目をする。
丁度中間試験の期間なのか、教科書を開いて勉強している。
化学の教科書か。元素記号全然分からない。今の子はとんでもなく難しい勉強をしているのだなぁと驚く。毎日勉強勉強なんてもうできないな。
そういえばさかもツインの女子高生生活は水疱瘡罹患から始まった。
入学2週間目でめめが水疱瘡にかかった。
あれよあれよとねねも水疱瘡にかかった。
そりゃそうだ。同じ部屋で生きていたのだから。
入学してみんなが部活だ友人関係だあーだこーだやっている間、さかもツインは全身にこしらえた水疱瘡が痛がゆく、手が届かない背中に薬を塗りあっていた。
うおーと言いながらぬりぬり薬を塗った。
そこに女子高生のキャイキャイさはない。
あるのは水疱瘡がかさぶたになる過程と痛がゆさだけ。
水疱瘡はかさぶたになったら学校に行っていいのだが、顔にもぼちぼち出来ていて、「こんな顔じゃ行けない!顔にレーズンみたいのひっつけて行けるわけない!」と行くのを渋ったがさかもツイン母の「もういい加減学校行きなさい」という怒号に抵抗する術もなくレーズン引っさげて学校に行った。
学友たちはそれなりに高校での生活をスタートさせていてねねはレーズンつきの顔で俯いて授業をうけた。
授業にはもちろんついていけない。
もともとの内向的な性格もあり友人との付き合いもパッとしなかった。
「元気だった~?」と久しぶりに学校に来たねねに声をかけてくれた人は顔にレーズンついてるのをみてびっくりしただろう。
こちらサイドとしてもレーズン好きでつけてる訳じゃないし、引っぺがそうとすると血が出て肉肉しいやつ丸見えちゃうから。とにかく人に見られたくない思いでいっぱいだった。
高校時代のの思い出は案外そんなもんで始まっているのであんまりいい印象はなく出来ればもう二度とやりたくない。ごめんだ。
結局卒業するまで出遅れた勉強のつまづきは克服できず、友人も少なく、部活も辞めてしまったが、一生の友人と呼べる人間はこの高校時代の友人だと思っているし、沢山楽しいこともあった。
傍から見れば落ちこぼれのレーズン女子高生だが、レーズンなりに楽しめたしレーズンなりにレーズンが必要な宝を得ることができた。
高校時代に大好きな人はルパン三世に似ていた。
自転車通学で外にいることが多かったので体が丈夫になった。
何より何にでも笑うことが多かった。とにかくおかしいことばかりでよく笑った。
女子高生をやってよかったと、あの高校で過ごせてよかったと本当にそう思う。
レーズンをむしったところ、目の下には未だに水疱瘡の跡が遺る。
背中にもケロイド状に遺る。
めめムカつく。けど許す。仕方ないから。
ねねが声をだいにして言いたい事。
それは
予防接種は大事!
任意接種のものも積極的に受けよう(当時水疱瘡は任意接種だったと思われるのでさかもツインの母は受けさせなかったと思われる)
あとは、そうだな。落ちこぼれても大切なものが何か見極める力を持って大切にしたいものとことん大切にしたら思い返したときにかけがえの無い時間を過ごせたって思えるんじゃないか。
ねねはそう思っているので。
では。