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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

鏡についた血吹雪がだれのものか言わないで

本日のナースステーションは平和だった。

定時になり、スタッフはぞろぞろと詰所へ戻り荷物を手に取り帰り支度をする。

 

ねね(姉)は帰る前必ずトイレに行き小を済ませる。本日もいつものようにトイレに行き手を洗おうと洗面所の鏡を見たとき異変に気付いた。

 

ねねの目線より少し高い位置に、すっと横のラインを作りながら赤い点状のものがついている。

 

よく見るとインクや着色料ではなさそうだ。

 

もしかして…血?

 

血だった。血吹雪ということで間違いなさそうだ。

 

ねねはこういうのをそっと拭いてなかったことにできるタイプではない。

 

近くにいたおばちゃんに「トトトトトイレの鏡に!血が!」と大きな声で騒ぎ立てた。

そう、ねねはイレギュラーなことが起きると騒ぎ立てるタイプの人間なのだ。

 

おばちゃんは「え~どうして~?」と穏やかに笑っている。

 

ねねは更にナースステーションにいる他のおばちゃんにも「トイレの鏡に血吹雪がついてます!」と、まるで校庭に野良犬が入ってきたのを見つけた小学生のように騒ぎ立てた。

 

すると「それ、師長さんの鼻血じゃないですか?」とひとりのおばちゃんが言い出した。

「そうかも~、さっき鼻血出たって言ってたから!」と他のおばちゃんも続く。

(登場人物がおばちゃんばかりで申し訳ないがおばちゃんばかりの職場なので仕方ない。全部別個体のおばちゃんでおばちゃん複合体のブレーンと話しているわけではない)

 

鏡を拭きながら思う。これ、絶対師長さんスプラッシュしてるなぁ、と。

血吹雪はイケメン師長の顔の高さだったのだろう。背が高いってこういうことなのか、としみじみ思う。

 

血吹雪はなかなか落ちなかった。固まってしまったようだ。アルコールしゅっしゅを念入りにかけて強くこする。

やっと落ちてくれた。イケメンの鼻血を拭く人生経験、悪くない。

 

後程師長が戻ってきたのでそっとしておけばいいものを「師長さん、さっき鼻血出しました?トイレの鏡でスプラッシュしました?」と聞いた。

 

師長「あ~鼻血出した!さっき慌ててたから!鏡についてた?あ~ごめん、拭く拭く!」

 

ねね「もう拭いたんで大丈夫です!」

 

よくよく考えると大丈夫じゃないだろう。ねねは全然デリカシーがない。きっと師長に恥ずかしい思いをさせたし、鏡のことを言わなければ師長だって鼻血ぶちまけたことを知らずにいられたはずだ。

 

ねねは妙な達成感だった。イケメンの鼻血掃除をしたから。

こんなこときっと人生でもうないだろう。今までなかったんだから。

 

今日ねねはイケメンの鼻血掃除をしたんだ。それだけでいい。今夜はうまいものを食べよう。