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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

あなたの家に行くまで

昨日銭湯に行くために川口元郷駅という場所に降り立った。


2019年サウナ初め - ここから先は私のペースで失礼いたします

その駅は私にとってたまに使う駅でもあり、上記の通り一冬の恋の場所でもあった。

そのドクターとは同じ職場で働き、色々と熱心な姿勢とかわいらしい顔に惚れてしまった。

検査介助についたときに白衣からはみ出る胸毛。患者さんに話しかけるときの笑顔。人見知りでスタッフとうまくコミュニケーションがとれない不器用さ。おもしろいな~と観察しているうちに好きだという自覚が芽生えた。

自分が退職することとなり、今後会えないのはさみしいなと思い連絡先を聞き出した。辞めると決めてから手続きをし、そのドクターと2人きりになる機会を伺いに伺い、伺いに伺った。やっとこさ2人になったのは職員以外立ち入り禁止エリアのトイレ前。奇跡的に鉢合わせたのでそこで連絡先をメモにもらってメールをする仲になった。

そのあとは飲みに行こうという流れになり2人で飲んだ。仕事の話や出身地の話をして帰った。また飲みに行きましょうと誘うと2回目の飲みが決定した。

川口元郷駅の周りには交番とスーパーくらいしかないけども、10分くらい歩くとJRの川口駅という場所があり駅前は飲みに行くには困らないほど栄えているので川口駅付近で飲んだ。

歩いて帰ろうということになり川口元郷駅まで2人で歩く。真冬の深夜他に歩く人はいない。静かな夜だった。このまま先生の家に行きたいとごねたらしぶしぶ家に行くことを許可してくれた。

私はずいぶんせっかちなので片想いを受け入れてほしいと思い「好き」というタイミングを見計らっていた。多分言うならこの帰り道であろう。寒い中手を繋ぐか繋がないか、繋いだその手をポケットに入れるか、そんな甘い距離感。好きと言う覚悟をきめろきめろきめろ、早く言え、そんな頭の中、歩道に眼鏡が落ちている。よく見るとわきの植え込みにおっさんが倒れている。

 

「え?」

 

一応2人とも医療関係者なので声をかける。生きているか、意識はあるか、救急車を呼ぶか?色んな段取りを、色んな想定を頭に駆け巡らす。

 

おっさんはどうやら酔って横転してそのまま寝てしまったらしい。「んぁ~大丈夫だよぉ~¶□〆*●ゞ」と言葉を発した。

JCS1桁、顔面から流血、止血はしているようだ。嘔吐なし。眼鏡損傷、右方ツルが損失。

血まみれの顔に左のツルとレンズだけになった眼鏡をかける。眼鏡はかからない。ずっこける。5回ほどトライしなんとか収まりのいいところに眼鏡をかけた。

その後も「大丈夫大丈夫帰れるから」とホラを吹くおっさん。これはどうするかと考えているうちにタクシーが通りかかったのでそのタクシーに詰め込み行き先は自分で言えたか分からないが負傷した泥酔おっさんを我々の夜から消去する。

 

さっきまでの愛とか恋とか、甘い思考は完全におっさんによって粉々にされた。2人は若干のシラけた雰囲気と、あのおっさん大丈夫でしたかね、という業務モードに入ってしまった。2人で協力しておっさんを助けたみたいな達成感はない。繋いだその手をポケットから出し離してしまったのと同様心も恋や愛の類いから離れて甘い夢から覚めたようだった。

 

ドクターの家には行ったけど小綺麗な部屋と医学書ばかりの本棚、アルミホイルで一面覆われたキッチンを見てこの人真面目だけど変な人なんだなと思った。お茶だか水だかよくわらかないものを頂いたので飲んで終電で帰った。

あの夜はなんだったのだろう。あのおっさんが倒れていなければ我々は関係をひとつ進められたかもしれない。

結局その年に大きな震災がありゴタゴタしてそれっきり連絡をとることはなくなった。Facebookでドクターは流れに流れ長崎で元気に暮らしていると知った。あの恋は叶わぬものだったが強烈な思い出として脳裏に刻まれているため川口元郷駅に来ると色々と思い出す。私は元気でいるから、あのおっさんもドクターも元気でいてくれれば何よりだ。