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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

私の住む街のやばい奴

やばい奴というのはどこにでもいる。

やばいとはあぶない、不都合が迫る様、といった意味の形容詞である。日常会話でもけっこう使われる。やばいと言ったらやばいのだ。

 

やばいの線の引きどころは個人で違うだろう。やばい奴というのはどんな人間なのか。危害を加えてくるのは本当のやばい奴。今日も殺人事件があった。毎日どこかで誰かが殺される。幸いこの人生、誰にも殺されずにきた。運が良かったのであろう。人を殺すようなやばい奴に出会わなかったのだから。それでもいつか誰かに殺されるかもしれない。やばい奴というのはどこにでもいることを忘れてはならない。

 

 

職場にやばい奴はたくさんいる。こいつやべえなと思いながらそう思っていないかのように働く。人を殺すようなやばい奴ではないが社会人としてどうなのという奴がいる。

機嫌で当たり散らすやばい奴。

働いたふりをして大口叩くやばい奴。

ズル休みする奴。

世も末だなと思いながら働く。心に危害を加えられた気分でズル休みした奴の仕事を背負って働き帰る。

いつかあいつにバチが当たればいいと思う。

 

社会に属しながら表向きは取り繕って中身は何もしないというやばい奴ら。それを許されるこの職場もやばい。文字にしてみたらやばさを感じて寒気がした。

 

 

電車に乗って帰る。

猛烈に臭い奴。

明らかに風邪っぽいのにマスクもせずに我が物顔で電車に乗る奴。

席を詰めて座れない奴。

荷物を背負ったままアンコントロールなリュックをぶつけてくる奴。

外に出ればやばい奴に出会わざるを得ないのだ。きっと私も誰かの目にやばい奴と映っているのかもしれないから。お互い様の気持ちは必要。少し寛容さも持ち合わせた方がいい。

 

それでも相容れぬやばい奴がいる。私の住む街にやばい奴がいる。

 

黒のレザーのロングコートを着た男だ。

初見は「こいつやべえな」と思った。

どうやら通勤の時間帯が同じらしくしばしば駅で見かけるようになった。いつもの黒のレザーのロングコートを着ている。

完全にマトリックスなのだ。(マトリックスでピンとくるのは30代以上の方かもしれない)

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でもここは日本、なんなら埼玉。仮想現実ではない。裏も表もないただの現実だ。彼だけ仮想現実の世界なのか?ならスイカを自動改札機にかざし駅のホームにエスカレーターで移動するわけない。私の現実はただの現実なので架空の人がマトリックスごっこをしているわけでない。マトリックスに憧れ続け黒のレザーのロングコートを買ったけど着る前に死んでしまった地縛霊を見ているわけでもない。私は何を見せられているのかと悩んだりもした。5回くらい見かけたところで「こいつやばい奴じゃん」と思って折り合いをつけることにした。私の街のやばい奴に認定した。

 

マトリックスは特別不審な行動をしたりマナーが悪かったりするわけでない。たぶん普通の社会人だ。人を殺すようなこともしていない。なんならちょっといい人かもしれない。だけど黒のレザーのロングコートを着ているからやばい奴なのだ。

 

本人からすれば不本意だろう。殺人するような人と同様に『やばい奴』と思われてしまうのだから。申し訳ない。だから声には出さない。だけど心の中では「やばい奴いる、やばい奴いる!」と思っているのである。

 

見た目が与える印象というのは怖いものである。たかだか黒のレザーのロングコートを着ているだけでこうなってしまうのだ。

逆に外見が普通でも中身はやばい奴もいる。本当にやばい奴はどいつなのか。それはわからない。これだけの人がいるなかで見つけて自己防衛できるのだろうか。野生の勘は働くのだろうか。ここが弱肉強食の世界ならあいつはやばい奴のジャッジができなければ食い殺されてしまう。安全な生活に慣れて呑気に暮らしていてはいけない、平和ボケしている場合ではない。やばい奴を見つけ出す力を身に付けなければ。黒のレザーのロングコートを見るたびにそう思う。

なんでこんなことを書き始めたかというと、いつも朝しか見なかった黒のレザーのロングコートの男を帰りも見てしまいドキッとしたからである。見かける頻度が増えてきているのはもしかしたら仮想現実に引き込まれているのかもしれない。平凡な暮らしに飽きたあなたに仮想現実、そんなわけない。平凡かもしれないけど安全な暮らしがしたい。そう強く思うのであった。