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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

餃子

餃子が大好きだ。三食餃子でもいいくらい好きだ。物心ついた頃から餃子が好きだ。野菜が入ってボリュームのある餃子がいい。1番好きな餃子は母が作った餃子、2番目は自分で作った餃子、3番目は亀戸餃子だと思う。

 

母親の作る餃子は刻んだはんぺんが入っていてふんわりしていた。野菜もたっぷり入りにんにくとショウガ、ニラでしっかり味がついていた。子どものころから何度も食べてきて餃子の日は特によくご飯を食べた。残った餃子はラップをして食卓に置かれていた。それを夜中こっそりつまみ食いをした。たくさん焼いても皆であっという間に食べた記憶がある。あんを作るのは母がやり包むのを手伝ったものだ。

 

母が他界してからしばらくして母の夢を見た。何度か出てきては終末の弱った体で台所に立とうとするのを「こっちはやるよ、いいから寝てて、体つらいでしょ?」と言いつつ「でも、もし元気があったら餃子を作ってほしい」と頼んだ。夢の中で餃子を作ってくれることはなかったが、私は目が覚めてからあの餃子が食べたいと何度も泣いた。

 

何度か母の餃子作りの手順を思い起こして作ってもあの餃子にはならない。1年位かけてやっと納得できる餃子ができるようになった。それまでは辛かった。同じようにやってもできないやるせなさやさみしさ。もっと一緒に台所に立っていれば。まずい餃子を作っては虚しくなった。

やっと納得できる餃子ができたとき、「お母さんが作る餃子とおんなじだ」と父が言った。やっとできた、それがうれしかった。

 

豚ひき肉に調味料を混ぜる。醤油、みそ、ごま油、塩、胡椒、片栗粉、中華だし、オイスターソース、にんにくとショウガもすりおろして。

下茹でしたキャベツを細かく刻んでニラと一緒にいれる。

冷蔵庫で少しあんを休ませて、皮にぎゅうぎゅうに詰めて焼く。これが家の餃子。はんぺんは入れなくなった。姪っこが卵アレルギーなので。

 

餃子の日は手がにんにくのにおい、明日まで落ちないだろう。チューブのすりおろしにんにくじゃダメでちゃんとすりおろしたやつがいい。

母の手はにんにくのにおいがした。キスミーのハンドクリームとにんにくが混じったにおい。ちょっと臭いけど懐かしくてよく知ったにおい。

 

餃子をたくさん焼く。玄関を開けて甥っ子が「いいにおい!もしかして餃子?」と元気よく入ってくる。そうだよ餃子だよ。手際よく包んで焼いて出すと1皿、2皿あっという間になくなる。

私は残った餃子を食べる。今日もよくできました。それでもまだ夢を見る。餃子を作ってほしいと頼む夢。この夢だけはきっと一生見続けるだろう。餃子を食べたいのもあるが、あの餃子を食べた時間を懐かしく思う限り何度も夢をみるだろう。大切な時間だから繰り返しみればいい。忘れないように宝物を見返す時間なのだ。そしてそれが喪うということでもあるのだ。