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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

昼休みの歯磨きの時間が好きだった

私が通った高校はとても辺鄙な場所にあり、辺り一面は田んぼで夏になれば道に蛙がひっくり返っていてゲーゲーガーガーと鳴いていた。学生はだいたい皆自転車で通学していて自転車置き場は体育館何個分よという位広かった。ところ狭しと並べられた自転車は強風の日は倒れてぐしゃぐしゃになっていた。

 夕立があれば雨宿りする場所もなく雨に打たれて「シャワーだーーーー」と笑いながら全速力で自転車をこぎ、雷が鳴れば「超低空姿勢でこげーー」と毎日がエンターテイメントみたいだった。トラックの風圧で友人が自転車ごと田んぼに落ちたり、おしゃべりしながら自転車をこいでいたら口に亀虫が入ってきたり(めちゃくちゃ苦くてしばらくその味とにおいが消えなかった)笑わないで帰った日はきっとなかったと思う。

 

 高校3年生のときの教室は1階にあった。昇降口から近い教室だった。窓を開けて田んぼのにおいのする風を浴びながら授業を聞く。受験のことよりも、初めて使うマスカラやフェイスパウダーに夢中だった。フリーソウルピカデリーのリップがいいとか、メイベリンのマスカラがいいとか、どうやって使うのかを放課後の教室で試行錯誤していた。

化粧禁止の高校だったので体育のときに意地悪な女教師にマスカラがばれて「落としなさい」と目を擦られたけど全然落ちなかったし「あの先生独身でいつも体育のことしかやってないからウチらが化粧してかわいくなるの許せないんだろうね」なんて悪口を言っていた。要は無敵の女子高生だったのである。

 

 昼休みにお弁当を食べたあと、女子は歯を磨く子が多かった。私も友人たちとつれたって歯を磨いていた。廊下にも流しがあって皆はそこで歯を磨いていたけど、私たちは上履きのまま外へ出て外の水道で歯を磨いていた。外にはサッカー部の男子がたむろって楽しそうにしていた。グラウンドの砂ぼこりを巻き込んだ風が目に入ると痛いのだ。「いてぇー!」なんて叫ぶ。学校1とまではいかないがスカートの短さに定評のある友人のスカートがはためき「下に体育パンツはいてるから平気だもん」とキャーキャー言う。授業の記憶なんてほとんどないけどこういう時間の記憶はけっこうある。 

 受験は4校受けて1校受かり専門学校へ進んだ。友人たちもそれぞれの道へ進んだ。

 

 あの昼休みの歯磨きの時間が1番楽しかった。みんなと同じが嫌だったから外で歯を磨いていた。友だちはもちろん少なかったけどもそれに付き合ってくれる友人がいたし、空をみて日光を浴びて信じられないくらい真っ黒に日焼けして、うまくいかないこともまぁそこそこ笑い飛ばせていたと思う。体育祭も文化祭も遠足も修学旅行も、きっと楽しんでいたと思うのだけど、あの日々を吹き抜けた風が好きだった。

 

今はもう再開発されすっかり小綺麗なマンションが建ち並んでしまった。最寄りの駅もできたから自転車で通う学生もへっただろう。あの頃と同じ景色はもうないのだ。気候もずいぶん変わった。だから今日みたいに風の強い日はあのときの風を懐かしみふふふと笑うのだ。