ねねは帽子を見に帽子屋さんへ行った。CAとか4とかつくおしゃれな帽子屋さんではないことを断っておく。ちまたの普通の帽子屋さんだ。
野良仕事で夏の帽子を泥々にしてしまい水をかけて洗ったらヨレヨレになってしまい厳しい日差しが射す日もあるので夏の帽子がなくなる前に買っておこうと思った。
ツバの形に癖のあるかわいい帽子を見つけた。ためしに被ってみる。うん、かわいい、このフォルム。あ~そうね、斜めに被ってもかわいいんじゃないかしら、そんなことを考えながら鏡を見る。
背後から店員さんが近づいてくる。癖のある帽子を試しているのできっと帽子が好きな人か通な人に見えたのだろう。
店員さんがねねに聞く。
「帽子、好きなんですか?」
ねねは少し悩んで答えた。
「ん~そんなに。」
好きというと話が広がり喋らなくてはいけない。この帽子のいいところとか、こだわりとか、店員さんのおすすめとか別に聞きたくない。ねねが被った帽子の評価も別に知らなくていい。いいと思うのはねねの主観だけでいいので。
そんなに帽子が好きでない人と帽子屋の店員が話して盛り上がるとは思えない。店員さんは潔く退陣した。
ねねは鏡の前で他の帽子も試しつつおしゃれ用と陽射し避け用の帽子を買った。
先程の店員さんがレジ打ちをする。
「この帽子、さっきとても似合ってたんですけどあんまり言うと嘘っぽくなってしまうんで言わなかったんです。だから買ってもらえてうれしいです。」と言われた。
この店員さんいいな、と思った。引き際や何が嬉しかったかどうして嬉しかったかを教えてくれたから。似合っていると誉められたことはそこまで重要なことではなくて、嘘っぽい言葉はいらないことを知っている人だったから。
人と喋るのがおっくうだが、本音を聞くのは好きだなと思った。
なるべく本音で喋ろうと思って喋ると「オブラートにくるんでね」と言われることもある。
人と喋るのはめんどくさいし色々と難しい。だけども包み隠さず話してくれる人はおもしろい。