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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

誰もいないその駅で

梅雨の晴れ間のとある日に、その男は神奈川の無人駅に現れた。

「僕ですね、晴れ男なんですよ」と長いアゴを更にしゃくらせて得意気に言った。

国道駅は大学時代友達がいなかったのでよく一人で来ていました。自転車でここら辺を走ったものです。」

 

その男はサボテンサトシと言う。ギターを片手にどこにでも現れる不思議な男だ。先月は山にいた気もする。

 
ギターを背負って山に来た男の話 - ここから先は私のペースで失礼いたします

 

まず国道駅とはどんな場所か、少し書いておこうと思う。https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%81%93%E9%A7%85
国道駅 - Wikipedia 

鶴見線の駅で1930年10月28日に開業した駅である。

前年の1929年に世界恐慌が、翌年の1931年には満州事変が起こり昭和が激動の渦へ放り込まれた頃のことだ。

 

Wikipediaより↓

冒頭写真でわずかに確認できるが、建物正面右の角の中段(ちょうど歩行者信号の右側あたり)の外壁の凹凸は、第二次世界大戦末期におけるアメリカ軍機による機銃掃射の銃弾の痕である。

第二次世界大戦の爪痕も残している。機銃掃射についてはこちらの記事で詳しくかかれている。

http://www.geocities.jp/hokarida/02_tsurumi_line/ts04-007.html

 

開業88年目のこの駅でサボテンサトシは何を見て何を語るのか。

 

 

昼下がりの鶴見線はやや混んでいた。誰がどこへ行くかなど知るよしもない。この駅は2008年に無人駅となり利用者がどれ位いるのかもわからないのだ。

 国道駅はカーブがかったホームのため電車とホームの間にすき間がある。
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 サボテンサトシはその隙間をしばらく見つめていた。
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「乗り降りするときは気を付けた方がいいです。」と言った。

多分言わなくてもみんな気を付けると思う。

 

駅のホームを降りて行くと渡り廊下に網が敷いてあった。サボテンサトシは気になったようでそこからしばらく動かなかった。 
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「鳩の糞ですかね?めちゃくちゃありますよ!」と言いながら多分鳩の糞をめちゃくちゃ触っている気がする。とんだうっかりさんだ。今日サボテンサトシに絶対近づかないようにしようと思った。

 
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カメラマンである私に向かってきたので慌てて距離を置く。鳩の糞エキスが怖いから。

 

無人駅なのでSuicaをピッとやる機械が虚しく佇んでいた。サボテンサトシにも文明はあるようでSuicaをピッとやっていた。
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改札を抜けると、そこらじゅうの壁を触り始めた。

「近くに川があるんです。行ってみませんか?」と言う。壁を触りながら言う。もしかして、鳩の糞(もしくは鳩の糞エキス)を擦り付けてる…?

 

近くの川は鶴見川というそうだ。遠くに工業地帯があるらしい。「品川のことはよく知っているんです。オフィス街のイメージがあるでしょう?実は食肉処理場があってそこら辺は臭いんですよ。」と色々土地の話をし始めるが、その間もずっと鉄橋を触っている。
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 「質感を確かめたいんです。」
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触って何を感じたかはわからないが、サボテンサトシはアゴをしゃくりあげて満足そうだった。

 

国道駅へ戻る。自転車が放置されている。
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現代社会の抱える矛盾、みたいなものがありますよね。」と言う。なんのことだかはよく分からなかった。
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暗闇へ足を進めるとサボテンサトシはギターを弾いていた。
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それを聞こうと足を止める者などいない。そもそもここには誰もいないのだ。

 

サボテンサトシはここで明るい曲は弾けないとギターを弾く手を止めてしまった。

 

 この場所の空気は重い。外は晴れているというのに昼間だというのに薄暗い。

「どうしてもマイナーコードを弾いてしまいます。」と国道駅の物々しい雰囲気にすっかり飲み込まれていた。
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遠くから人が来たがサボテンサトシの歌を聞くこともなく去っていった。
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通行人もサボテンサトシも私もここには存在していない。時間がたてば消えていなくなってしまう。高架下には民家があるが生活音は聞こえない。

誰かいるようで誰もいない。

現代社会の抱える矛盾とは、相手が見えない世界をまるで見ているかのように思い込んでいることなのだろうか。我々は本当に生きているのだろうか。文明の発達により人々の心は入り組んで難しくなってしまった。心は簡単に壊れるし簡単になくなる。それでも人間は素晴らしいと、絆や愛は素晴らしいとテレビは言い続ける。我々の手元にあるのは名ばかりの絆や愛なのではないか?心のどこかにある満たされない気持ちが積み重なった掃き溜めのような澱んだ空気は国道駅の空気と似ている。サボテンサトシの言ったことが少しだけわかった気がする。

ここに駅がある。

ここにサボテンサトシはいる。

誰も見向きもしない。存在とは他者から見えるものなのか。今ここにいるサボテンサトシがサボテンサトシである証明はできないが、サボテンサトシが鳩の糞を触ってしまったであろう事実は写真が証明している。

もしかしたらこの駅で確かなものは鳩の糞だけなのかもしれない。それ以上のことは難しいので、サボテンサトシの奏でるギターを聞きながら考えるのをやめた。

 

戦時中の爪痕を探したがどれだかよくわからなかった。本当は駅の外壁のものらしいが我々は適当に「これじゃないか」と話した。戦争の悲惨さを目の当たりにして言葉に詰まってしまった。
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 また壁を触って鳩の糞を擦り付けている。

 

国道駅について、サボテンサトシに聞いてみた。
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「さみしい場所ですね。テーマパークの造り物や新しいものにはない、時代に置き去りにされた本物の昭和です。」

88年という歴史を肌身に感じたサボテンサトシの言葉だった。国道駅は昭和レトロ風とか再現ではなく平成が終わる今にまで本物の昭和を遺している。

 

利便性や景観を常々新しくすることだけが全てではない。そこにあるものをそのまま、ありのままの姿にしておくのは後々価値が見えてくる。周りがどうあろうとも、国道駅は昭和の激動の時代や戦争の悲惨さをそのまま伝えるものであってほしい。

知るということは教科書やインターネットだけではなく、その場所に立ち何を感じるかということも大切なのである。

 

サボテンサトシを通して見た国道駅はありのままの大切さと強さを教えてくれた気がする。

 

束の間の昭和へのタイムトラベルを終え現代社会へ帰る。
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 見上げるとサボテンサトシがいた。
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1時間に2~3本しか来ない電車を待つ。
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 駅のホームで呑気にギターを弾いていたら、電車が来てしまった。

サボテンサトシは電車がなかなか来ないのを知らずに「次の電車に乗りましょう」と言ったが私は「ダメ!これに乗る!乗るよ!」と声を少し大きくして言った。一気に現実へ引き戻された。

戸惑うサボテンサトシ。

電車は扉を閉める準備を始める。

「僕まだギターしまってません!」

焦るサボテンサトシ。

「乗るよ!乗るよ!」

焦る私。

 

電車に乗り込み扉は閉まる。

それなりに混んでおりギターケースを広げられず生身のギターを抱えたまま電車に揺られる。
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「あの、次の電車まで待てませんでした?」と聞かれたので、次の電車は20分後と言うと仕方ないと言わんばかりの顔をしていた。

 「あの、すごく視線を感じます。奥の人が僕のギターを覗きこんでいます。」

「きっと刃物を持って乗り込んできた人と同じような衝撃を与えているんでしょうね。」と言った。

私はどうすることもできず「ごめん、なるべく隠すから!」と手を広げてギターを隠そうとしたけども、46キロの婦人のひょろりとした腕からギターはこんにちわして他の乗客の目から守ることはできなかった。存在感が異様だった。
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 ギターは車窓を嬉しそうに見つめていた(気がする)。きっと初めての出来事だったのだろう。

 

駅につくと無言で人気のない場所へ歩いていきギターをしまい始めた。
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恥ずかしさのためか手間取っていた。

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 無事にギターをしまい、悪いなと思ったのでビールを1本献上した。多分サボテンサトシは許してくれた(ハズだ)

そういう優しさというか悟っているのがサボテンサトシのいいところだと思う。

タイムトラベルは多少のハプニングがありながらも無事終了した。

次はあなたの街まで行くかもしれない。そのときはぜひ足を止め歌を聞いてあげてほしい。

 

【少し宣伝】

そんなサボテンサトシは現在モテワンコンテストというものにエントリーしている。投票形式で選ばれた者が準決勝、決勝へ進むシステムだ。この経験を生かし、優勝を目指してほしい。

https://mote1.jp/comedy2018_basic/cheer/nagi6rg6ohtp