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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

肛門鏡をはじめて見た日のこと

病院に勤めていると「そ、それは…」という器具によく出会う。

医療処置というのはけっこう無茶していると思う。酔っぱらって滑って転んで顎が裂けたときじゃぶじゃぶ洗われた。「こんなの人間のやるこっちゃねぇ~!」と心のなかで叫んだ。

親不知を抜いたとき歯肉を切開しドリルで歯を削っていてそのときも「こんなの人間のやるこっちゃねぇ!」心のなかで叫んだしなんならちょっと泣いた。

 

医療処置とは安全で快方に向かわず拷問である。ならば医療器具は拷問器具なのである。

 

こいつを知っているかい?
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肛門鏡という。

痔やら直腸のトラブルを診る器具だ。

ねねがこれを初めて見た日のことを話そうと思う。

 

あれは26歳のとき。新卒で入職した小児科を4年と9ヶ月勤め辞めたのち半年の無職を経て成人病棟の勤務を始めたときだった。

慣れない成人の対応。採血、点滴、ドレーン、全てがまるっきり新しい環境だった。

病院、病棟、科によってまるっきり色が変わる医療の世界。戸惑うことも多々あった。使う医療器具もところ変わればがらりと変わるので現場に出て初めて見る器具も多い。

看護師です、というと「あの『メス』とかいうのやるの?」と聞かれるがあれはオペ室ナースだけである。手術器具について一般病棟の看護師はあまり知らないと思う。(熱心に勉強している人は知っているだろうが)

 

新しい病棟は老消化器医師がいた。

下血をした患者さんがいると報告するとよぼよぼのしゃがれ声で「肛門鏡持ってきて」と言った。

 

ここでねねは「は?」と思う。鏡?

近くにいたベテランおばちゃんナースが「今持ってきます~」と返事をする。

 

肛門鏡がなんなのか、どこにあるのか、どんなものなのか。想像もつかないものがやってくるのを待った。そして持ってこられたのがこれだった。


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「(は?無理じゃね?)」

そう思って肛門鏡の介助につく。横向きで寝る患者さんのおしりにこれを突っ込んでいた。

「(は?無理じゃね?)」

それしか言えない。

意識レベルの低い患者さんは何も言わなかった。横向きになる患者さんの横向きになるのを支えながら「は?」と思っているうちに処置は終わった。特に問題はなかったらしい。

 

「ずいぶんとえげつないもの使うわな~」と思った。それが肛門鏡との出会いだ。

その後2度ほど肛門鏡に出会う機会があったがこれを見るとちょっと笑ってしまう。「だから無理だって!」と。こんなんけつに突っ込まれたら泣いてしまう。拷問だって。

 

あの日から肛門鏡だけは勘弁してくれよ、と思いながら生きている。生きるというのは色々と大変なのである。それだけの話。