そのホテルの存在を知ったのは日本昭和ラブホテル大全という本で、昭和王道ラブホとしてトップで紹介されていた。赤い絨毯、ネオン看板、贅を尽くした部屋、どれをとっても昭和でレトロで美しかった。名前をホテル富貴(ふき)という。
それから何度も本を見返し公式SNSをフォローしホテル富貴に想いを馳せた。大阪へ行く用事ができたので念願のホテル富貴も行ってきた。ホテル富貴レポートをここに記す。
ホテル富貴は京橋駅駅から徒歩数分。少し寂れた雰囲気は東京でいえば浅草の奥の方っぽかった。ふと見上げるとホテル富貴は異世界の入り口のような佇まいで建っている。本当にここだけ昭和だった。フィルムカメラの古ぼけた色合いみたいな時代の忘れ形見だ。
このネオン看板に何を感じるか。古くさいだけではない、もっともっと不思議な感情。
広角レンズがほしくなる。道が狭いので全貌を写せる場所取りができないのだ。
外観を眺める。このバルコニーの格子とかいいよな、と思う。
外観だけでこの胸の高まりよう。中に入ったらどうなるのだろうか。
入り口
入り口は2ヶ所あるようだが正面から入るとフロントがすぐなのでいいと思う。
ここからも入れる。
ステンドグラス風のアーチ窓は中から見るとこんな感じ。
部屋を選ぶパネルは稼働しているのかわからない。パネルを見ていたらフロントの人に声をかけられ「部屋空いてますか?」と聞くと「大きい部屋と普通の部屋、どっち?」と聞かれる。「大きい部屋」と言うと「じゃあ302号室ね」と言われる。そのまま部屋に行けばいいらしい。
エレベーター
エレベーターに向かう。エレベーターホールはギラギラしている。
この黒字に赤文字の組み合わがたまらなくいい。3Fへ、という文字が光っている。
3階へ着くと誘導灯がついている。これが稼働しているのが奇跡のようだ。だいたいこういうのって壊れているイメージがある。
廊下の至るところに観葉植物がある。ラブホに観葉植物があることがおもしろい。誰も見向きもしないけどそこに植物があるという遊び心。
302号室 江戸
鍵は開いている。そのまま入ればいいようだ。中から鍵をかける。
靴を脱ぐ場所に石が敷き詰められている。これ、必要?という不要さに昭和を感じる。不要さを誂える余裕さがいい。
襖を開けるとそこは…
何これ…ははっ、ウケる。
石が、屋根が、畳が、高床式寝室が!
全てが!全てが未知の世界。目眩く昭和レトロ。
こっちのゾーンは完全に温泉旅館。
お茶飲みセットがある。
昭和レトロ好きにファンが多いというガラスの灰皿。
冷蔵庫、テレビ、ケトル、扇風機。ここらへんは現代仕様なので安心する。
このドレッサー、三面鏡のやつ。いいな。いつかドレッサーほしい。
引き出しは何も入っていなかった。ここに来てこのドレッサーの引き出しにいちいち何かをしまう人などいないだろうが律儀にあるのがいとおしい。
備え付けのタンスにはコートなどかけられる。完全に旅館のあれだ。
寝室
高床式寝室は雰囲気が現世のものではなかった。
見下ろすとなんか偉くなった気分。
ベッドヘッドはこんな感じ。
電気を消すと…
最高だ…
この色気は異常。ラブホとか肩書きは抜きにしてこの空間は美学である。
三面鏡に写した世界はもはや仏壇のようだった。
洗面所
多少の昭和感はあるが明るく清潔なので問題なく使える。
この花柄がたまらないかわいさ。
蛇口をひねるところもだいぶ少なくなってきた。この先の人生であと何回蛇口をひねるだろうか。蛇口に焦点を当ててみたら時代が着実に変わっていることに気づく。
ドライヤーは今どきのなのでご安心を。
トイレ
水色とピンクの爽やかな色合わせ。
ホラートイレじゃなくてよかった。
浴室
浴室にも観葉植物がある。温室のような浴室だ。
なんか健康にいいらしい。
風呂に入る時間がなかったのでラドンを体感できなかったのは少し残念である。
このタイルもかわいい。凹凸がないのでマジョリカタイルではなさそう。
浴室に謎のインターホン。
押してみたが鳴らなかった。鳴ったところで怖いので鳴らなくていいのだけど。
天井もガラス窓で採光設計がすばらしい。ここにお風呂に入りに来るだけでも価値がありそうだ。
洗面器、風呂椅子と排水溝が2つずつあるのがおもしろかった。
さて、帰るか。
休憩が75分なのでそれ以上は延長料金がかかる。写真を撮るうちにあっという間に2時間近くかかってしまった。75分は短い(実際にラブホとして使う場合は時間配分を慎重にした方がいいと思う。とはいえこんな環境なので昭和レトロファンには部屋に心奪われ集中できないだろう。)
帰路
フロントの奥には螺旋階段がある。
あぁ、好きだなここ。
昭和の残り香ってこういうことだよな。
大正でも平成でもない昭和が造り出したもの。新しい時代に移る前に忘れないで見ておきたいものがある。時代は絶えず進むけど、進まない時間というのにも価値があって、ここはできればいつまでも残してほしい昭和遺産なのだ。
2019,4 大阪 昭和遺産 ホテル富貴