人として生まれて言葉を知り人と関わることを知り、人を想い想われ人を愛し愛される。
人類が誕生してから延々と繰り返されてきたのだろう。
時には争いも起こる。けど争いは側面であり、戦う別の側面には家族や恋人、守るべき人があったはずだ。
酸いも甘いも人は人との関わり合いの中で生きているのだ。
そしてねねも誰かを想い愛する人生がやって来ると思っていた。朝日が昇るように、夕日が沈むように当たり前にそんな人が現れると思っていたがそれはなかなか難しい話だと薄々気づいている。
全ての人が当たり前のように結婚し子どもを産む時代ではないのだ。
人との関わり合いに幻想を抱き想いをこじらせて壊してしまうものなのではないかとすら想えてくる。
しょせん自分とは違う生き物であるので分かり合うのは難しいのだが、絆という言葉がいやに期待をさせ、なんで分かり合えないのか、なんで意に反するのか、という苛立ちや不満が脳裏をのぎる。
ひとつになろう、とか無理です。
私もあなたもひとつです。
ひとつとひとつでふたつでいいんです。別の生き物なのだから。
今日、ねねは人を愛する資格などないと思った。ことの発端は、非常にありがたいことにたまにご飯に誘ってくる男性(恋愛感情はお互いない)がいてその人とご飯に今日は行く約束だったのです。
LINEのやりとりを見てください。
予定を延期してくれとのこと。
どうやら調子が悪いらしい。
ねねはクーラーでやられて調子悪い、というところを何か勘違いしたのでしょう。
クーラーがやられて調子悪い、と思ったのです。
ねねはクーラーの心配を始めます。
今日は気温が35℃もあるし、クーラー壊れたらやばいでしょうと。
クーラー最優先にしてください
これはクーラー修理屋さんを呼んで早く直してもらえ、という意です。
よし、クーラーの修理をして早く涼しい部屋で休めるよう気配りをするなんてなんてえらいじゃないの。約束延期にされたって怒らない、これが後先のないアラサー女子の忍耐力。怒ったりキィッとしたら即メンヘラ扱いだ。後先はなくても怒らない精神力をみせるのアラサー独身女子の鉄則。ぐっと歯を食いしばり堪えるのだ。たとえその歯がぶっかけようとも差し歯をさしてニコニコ笑うのだ。戦えアラサー独身女子。己の敵は己の怒り。
あっ、クーラーじゃなくてオレの体調ね
…
…?
ん?
お前か?お前が具合悪いんか?クーラーだろ、具合悪いのは。お前まで具合わりいんか?
…
あー、クーラーでやられて、って書いてあるわ!
ほんとだ!ご本人様が具合悪いんじゃん!笑
おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。 フリードリヒ・ニーチェ
お前がこいつ何言ってんだとポカンとするときこいつもまた等しくお前何言ってんだとポカンとしているのだ。
コミュニケーションエラーというやつです。
人よりクーラーの心配をしている。自分がサイコパスかと不安になる。
人の心配など全くしていない。人との関わりの合いに生きているはずなのにクーラーの方が気になる。
慌てて謝り、お大事にしてというと、クーラー以下の扱いをされたのに「ごめんね」と謝るあの人はなんて器のでかい人だろう。本当にごめん。
でもあの人を思う度、いるはずの具合の悪いあの人より、あるはずもない壊れたクーラーしか思い浮かばないのだ。
壊れたクーラーの人なのだ。本当は具合悪いのに、壊れていないクーラーの方が心配。いやクーラー壊れてるんじゃない?大丈夫かな?そしてあぁねねは人を愛する資格などないなと悟るのだ。人よりクーラーを大事にしているから。
今度会うことがあったら聞いてみよう。
クーラー大丈夫だった?と。