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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

「不要不急の外出を控えて」って言葉は無力

先日の台風15号は関東を直撃し久しく災害のなかった関東に大きな爪痕を残した。

 ニュースでも「最強クラスの台風」「接近とともに世界がかわる」など警戒され、死者も出る災害となった。未だに停電断水で復旧の目処がたたない地域もあり心からお見舞い申し上げます。

 

私の住む埼玉は大きな被害はなかったものの、夜通し響く雨音風音に寝付けなかった。前日からJRの運休がアナウンスされており通勤はどうしたら行けるだろうかと寝付けぬ頭で考えていた。

8時頃には運転再開という情報もあり少し待てば電車が動くかなと思い朝いつもより早く出勤した。JRの駅のホームは静かで改札前で駅員さんが「運転再開の見込みは立っていません」と繰り返しアナウンスし、通勤客は諦めてバス停とタクシーの列に並んでいた。

地下鉄もある駅なので地下鉄へ向かう。なんとかして埼玉から脱出し都内へ出たい。通常より運転本数を減らした地下鉄に乗り込むも都内へ向かうにつれ混雑しあっという間に満員となった。

JRの乗り入れ駅で降りるも、山手線京浜東北線は動いていないという。仕方がないのでバスに乗るもバスも遅れてやってくる。道路は混雑しておりなかなか進まない。やっとたどり着いた職場の最寄り駅はホームページに人が溢れ入場規制をしていた。やってくる電車はどれも満員で乗り入れる余地などなかった。

 

私はなぜそこまでして職場に行ったのか。

それは病院勤務だからだ。たくさんの入院患者さんが待っている。食事、排泄、24時間生きること全てに介助が必要な人たちだ。

この首都圏の通勤パニックで他にも来られないスタッフがいたため、予定されていた入浴が中止となり最低限のことだけやりましょうということになったらしい。出勤して早々経管栄養をつなぎ午前中をギリギリ終える。

たった週2回の入浴が中止となり割りを食うのはいつも弱者なんだな、と思った。「今日お風呂中止になっちゃってごめんね」と患者さんたちに言ってまわる。私の勤める病院は療養病院なのでお風呂が中止となるくらいで済んでよかった。夜勤明けのスタッフが来られないスタッフの電話対応に終われ、順次来たスタッフから病棟を回していく。それでも通常業務よりは負担がかかる。

 

これが救命医療の現場だったら、オペ室だったら、重症患者さんを抱える病棟だったら、マンパワーが足りないというのは非常に恐ろしいことである。朝イチでオペ、朝イチで回診、朝イチで薬の変更、月曜日の病院の朝というのは戦場なのでマンパワー不足では困ってしまうのだ。最悪命に関わることが起きてしまうかもしれない。

 

「不要不急の外出は控えて」というのは仕事は不要ではないから出勤しますよ、というニュアンスで捉えているだろう。だけども交通網のパニックでは本当に必要な人が出勤できないし、急病人を運ぶ救急車も、往診に行く訪問医も動けなくなってしまう。

鉄道職員や消防、警察だってそうだ。緊急車両が通行できないというのは大問題である。

どの職種にも貴賤はないが、ここはどうしてもという職種から交通機関を使えるように世の中が変わってほしい。

救命医療ではトリアージというものがある。手当の緊急度に対し優先順位をつけるのだ。カラータグをつける。

重症は赤

中等度症は黄

軽症は緑

死亡は黒

赤→黄→緑→黒の順で対応する。死亡者を最後にするのは救命の余地がある生きている人を優先するためだ。そういうシビアな世界もある。

 

交通機関が麻痺した際出勤トリアージをするというのは現状難しいだろう。誰もが出勤しなくてはと思っているのだから。自分が休んだら業務に支障がある、行かなくちゃ、という人たちばかりだろう。まして管理職が団塊の世代~根性論の世代だと「電車が動かないから来ませんでした」ということが通用しないだろう。這ってでも来いという思想だから。

その思想が更なる交通機関の混乱を招く。JRの運休が決まれば潔く「出勤できる人だけ出勤、あと自宅待機」ということはできないのだろうか。今はインターネットがあり交通機関の混乱はタイムリーに分かる。駅の入場規制をしているところに無理に並んで具合が悪くなる方が大変だ。熱中症でぶっ倒れても救急車は道路が混んで来れないだろう。二次災害が人的要因なんて悲しい。

駅で妊婦さんや高齢の人が根気よく並んでいるのを見たら休めない社会なんてどうかしてるよと思った。

「不要不急の外出は控えて」という言い回しはやめよう。JRが運休しているなら「交通機関が復旧するまで自宅待機が基本」とはっきり言ってくれないか。復旧したところで直後は大混雑、そこで初めて「不要不急の外出は控えて」を出せばいい。

どこかの企業が、どこかの管理職が、「根性で這ってでも来い」という考えを捨てて、「ライフラインを守るために優先すべき人たちに安全に交通機関を使ってもらう」と譲れることができるといいなと思う。

田んぼの様子を見に行くなと言われても見に行って流される人と、電車が動いていないのに出勤する人は同じだ。「電車止まってるから出勤すんなよ」、と声を掛け合ったほうがいい気がする。

 

まだまだ日本の台風シーズンは続く。今回の事例を忘れずに、無理したって仕方ないという姿勢でやっていこう。