冬の寒い時期に身体が欲するもの、それは温泉だ。我が一族は温泉が大好きで物心ついた頃から温泉に浸かっている。東京寄りの埼玉県には温泉はないが、栃木、群馬、長野、神奈川あたりの温泉によく出掛けた。30歳をすぎてから温泉好きに拍車がかかり、70歳を過ぎた父のささやかな娯楽の付き合いも兼ねて数ヶ月に一度は一族で温泉旅行に出掛ける。
父の「温泉行きたいな」という言葉をきっかけに2月の温泉旅行は決まった。最近のベスト温泉は福島県の新野地温泉である。
秘湯だよ!福島県相模屋旅館のお風呂のはなし - ここから先は私のペースで失礼いたします
こっくりとした硫黄泉がとても良かった。
この時期の温泉旅行はアクセスできるかが鍵となる。いい温泉は山奥にあったりするので積雪があると車でアクセスしずらい。秘湯でアクセスしやすい場所を探してみると群馬県下仁田温泉清流荘が出てきた。高崎駅から上信電鉄に乗り1時間、終点の下仁田駅から徒歩20分の場所にある。
単線のローカル鉄道から見る車窓は何もなくてこれぞ旅情だなと思った。
駅前に小さな売店がある。
駅前商店街はひっそりとしていて昭和のまま時を止めていた。
静かなシャッター通りと昔ながらの商店に異世界に紛れ込んだような不安すら感じる。だけどこういう建物が好きなので心も踊る。写真を取りながらゆっくり歩くのがちょうどいい。
駅前にタクシー会社もあるので車で行くこともできる。
下仁田あたりはあまり雪も降らないそうなので冬場でも自家用車やレンタカーで行きやすいだろう。
駅前の商店で近くの牧場の乳製品が売ってる。バターやサブレ、牛乳を取り扱っている。牛乳を買ったのだがこれはとてもおいしかった。
宿は辺鄙なところにある。車も通らないような道を歩く。
小さな看板が目印だ。
小さな川が流れており橋を渡って本館へ向かう。小川のせせらぎはいつ聞いても心地いい。
秘湯を守る会のちょうちん。
この会には信頼をおいているのでいい湯である予感がすごい。10組も予約が入っていなくて静かだった。温泉に来て何がしたいといったら静かな場所でのんびりしたい、というのがあるので他のお客さんが少ないのはうれしい。
チェックインを済ます。
ごちゃっとしたフロントがおばあちゃん家みたいで気取っていないのがいい。
庭には池があり石橋がかかっている。風情がある。
今回は離れのお部屋に宿泊。
2部屋続きの和室だ。
広いな~。
奥の部屋にはこたつも!久しぶりのこたつに足を突っ込んだら出られなくなってしまう。
用意された布団も肉厚の毛布でずっしりとしている。昭和だ~と大喜びした。
清流荘では温泉は内湯が1つ、露天が1つである。
渡り廊下をずんずん進み、
本館を突っ切り、
そこそこ歩いて
階段を下りると
内湯がある。
夜の写真だが、明るい時間だと渡り廊下の窓から飼育されている鹿や鯉が見られる。うわ~鹿だ~と思った。
脱衣場と洗面所はこじんまり。
内湯は4人くらい入ればいっぱいかな、という感じ。
お湯は日本でも数少ない「含二酸化炭素 炭酸水素塩泉」だそうだ。見た感じはやや濁っている。匂いは気にならない。ちょっとしょっぱい。入ってみると身体にまとわりつく柔らかなお湯だ。源泉は湯温が低いので加温しているそうだ。長湯したくなるお湯である。
露天風呂はすごいぞ。
ほったて小屋みたいな見た目。
男湯と女湯の入り口がやや分かりにくい。
入ると露天脱衣場。キタキタキター秘湯感!
外から見えないか不安になる造り。男湯は外から湯船が少し見えちゃってる。女湯は見えないようになっているが露天脱衣場は慣れるまでちょっとした緊張がある。
洗い場は一応あるのだが、シャワーがないのでカランで洗面器に湯を溜めて掛け湯をする。冬場の寒さでは露天洗い場はけっこう凍える。覚悟が必要だ。
浴槽は2つに分かれており広い方は加温した温泉、狭い方は源泉。外気にさらされ普通に水。体感として確実に言えることは16℃以下。冷たい。
サウナ水風呂通としては交互浴が温泉でできる!とうれしくなったが、洗い場での寒さが後を引き温まりが足りず1度目の入浴では水風呂に入れなかった。
ここで一旦夕食を挟む。
猪鍋や鯉の刺身、ネギの天ぷらなど珍しいものがたくさん出てきた。猪、鯉、烏骨鶏を飼育しているそうでどれも新鮮で臭みはなくおいしかった。特に鯉はぷりぷりとしてて一般には泥臭いと言われるがまったく臭みがなくおいしかった。宿の人は「水がきれいだからね」と言っていた。
ちなみにこの宿にはビールの自販機しかないので風呂上がりにジュースや炭酸水が飲みたいということであればあらかじめ持っていった方がいい。我々は飲み物を買いに駅まで20分かけて戻ることになった。(周辺の山道にも自販機がない)
食後こたつでまどろみ元気チャージをして夜のお風呂へ。
まずは内湯で存分に身体を温めてから露天風呂へ行く。
夜の宿はかなり暗くて1人で移動するのはけっこう怖い。
夜の露天風呂は程よい暗さ。夜空の星が輝くのが見える。とても幻想的だ。
しばらく温まったところで水風呂へ。外気が5度以下の水風呂はかなり冷たく感じる。最初はひ弱って腰までしか入れなかった。が、普段銭湯で入る水風呂より肌当たりがまろやかで身体に膜が張りその上から冷たさが来るような感じだ。血管がボワッと広がる感じもありシャキッとする感じもある。雪の中に手を突っ込こむけどジンジンするけど辛くはない。寒さが身体を駆け巡ったところでお湯へ。
お湯が流れてくるところに背中を預け熱いお湯をジンジンと感じる。冷たいところから温かいところへ行くと温かさを強く感じる。拍手しまくったあとの手のようなムズムズとした痒さも少しある。まぁとにかく気持ちがいい。清々しい。
2回目に水風呂に入ったとき整った。キマった。頭パッカーンした。喉から口の中、脳みその中、目の奥が冷たくてシャキッとする。息を吸うとミントのような爽快感が通り抜ける。嘘、温泉でこんなに整うの?と驚いた。んん~最高っ!
整った時に聞こえる音域が変わる気がする。それと同時に世界も変わる。何かに目覚めた感覚になるのだ。
あんまり水風呂に入っていると寒いのでまたお湯に浸かるが身体の巡りが代わりお湯に溶けてしまいそうな気持ちよさがある。あぁ、ここに来て良かったな、この温泉に入れて良かったな、とつくづく思う。
この交互浴にハマってリピーターとなる人も多いらしい。成分表のとなりの看板に入ってみれば病み付きになる不思議な感じ、と書かれていた。分かる、と共感した。
整ったあとのねね。露天風呂の入り口がこういう石の囲いだけの秘湯感。
普段の銭湯では人目が気になるところだが、夜通し入れるここの温泉は夜中になれば他のお客さんはお休みになられているようで誰もいない。自由に露天風呂を独り占めできる。
とはいえ夜は暗くて怖いので1人よりは気心の知れた人と入る方がいいかもしれない。さかもツインはこういうとき便利である。
出る時に掛け湯をする。いつもシャワー派で溜めるお湯が苦手なのだが洗面器でジャバジャバ掛け湯をするのも心地いいことに気づいた。今度銭湯に行ったら洗面器で掛け湯をしてみよう。
温泉に水風呂があるところは珍しい。温泉で交互浴をして整うとは思ってもみなかったので下仁田温泉はかなりオススメだ。サウナ通をも唸らす温泉だろう。冬のこの時期なので外気浴もすっきりしていい。周りに何もない場所なので空気が澄んでいておいしい。寒くて何もしたくない冬、おこもり温泉旅行というのは乙なものである。