3月の終わり、シャトーすがもの休業ニュースが入り再開を待ち望んだがそのまま閉業、11月の終りから解体工事が始まった。
シャトーすがもとの出会いが私の昭和ラブホ巡りのきっかけとなった。現役稼働する回転ベッドがあるらしいと聞きつけ訪問したのが2019年3月の出来事である。初めての昭和ラブホ、初めての回転ベッド、初めての1人ラブホに気分は高まり私の知らない世界はこんなにきらびやかだったのかと度肝を抜かれてしまった。あの高揚感はなんとも言いがたい。
柔らかい飴色の電球に照らされ五面の鏡が世界を広げる。
まあるい掛け布団がなんともかわいらしい。
巣鴨にこんな場所があるなんて。写真を撮るのも忘れてしばらく呆然としていた。
人気のないけだるい午後のフロント。部屋のパネルを見るのも楽しい。どんな部屋があるのだろう、全部屋行ってみたいなとわくわくさせられる。
そうしてことあるごとに訪れる行きつけのラブホとなった。ライフワークの火曜サスペンスごっこの撮影もずいぶんここで撮らせてもらった。
印象深いのは初対面の人とシャトーすがもに来てインタビューを受けたこと。
火曜サスペンスごっこマニア「死んだふり」自撮りを続ける看護師
シャトーすがもの好きなところなんかを話ながら「回転ベッドすごいですね!」とびっくりしてもらったのはなぜか私まで鼻高々になった。誰が見てもすごいベッドがあるラブホなのである。
2020年4月から5月までの緊急事態宣言により外出がままならずずいぶん気持ちが落ち込んだ。
ようやく宣言が解除され仕事をそそくさと終わらせカメラと好きな服を持ってシャトーすがもに飛び込んだときあの飴色の光の眩しさに救われる思いだった。本当に闇のような日々を照らす光だった。
窓を開けシャトーすがもの看板と走る山手線を見て、ベッドに横になり久しぶりの自由と非日常を味わう。「楽しい」という気持ちがみるみる甦りホッとした。帰り道は清々しく足取りは軽かった。
いつどの部屋にいっても個性があり毎度新鮮な気持ちで楽しめた。
色とりどりのタイルの鮮やかな浴室が特に好きだった。
好きなところを挙げればキリがない。
不思議な柄の布団や
浴室とベッドルームの境のガラス窓の模様
シャンデリアやレリーフ
柔らかな夜への光
アーチのかかった扉
どの部屋にもあるチョコレート
どうか灯りを消さないでとなんど思ったか。
それでももう戻れない。
さようならシャトーすがもよ。
そしてお疲れさま。
(シャトーすがもオーナー様、従業員の皆様、いつ訪れても目映く素敵な場所を提供して下さりありがとうございました。これだけの装飾を美しいまま維持するのは大変だったと思います。皆様の日々の丁寧な仕事があったからこそのシャトーすがもです。本当にお疲れさまでした。)
2021年12月
【追記】
コロナが流行しこの2年のあいだで昭和ラブホの閉業のお知らせを数件聞いた。昭和ラブホだけでなく、古き時代の旅館やホテルも閉業している。「また行きたいと思っていたのに」、「また行こうと思っていたのに」と頭を抱えることが度々あった。移動制限による観光業へのダメージを思い知らされるのである。
また施設の老朽化や経営者の高齢化により閉業していくところもこれから多々あるだろう。昭和レトロなものが好き、というのは消え行く『好きな場所』をいくつも見送っていかねばならないという運命でもある。わかっていても気持ちが落ち込むこともある。
シャトーすがもは8回くらい訪問していて、それでも回れたのは4部屋である。どれだけ訪問しても悔いが残るのでなるべく好きな場所は多く訪問ておきたいと思うが足を運べる時間は限られているのが悩ましい。なるべくホテル側にも利益が出るようにしたいし。
SNSで昭和ラブホに魅力を持って訪問してくれる人が増えればいいなとは思っているが、なかなか魅力がうまく伝えられないのがもどかしいところである。今後の私の課題は昭和ラブホの魅力を伝えること、なるべくたくさん訪れることであるかなと思う。昭和ラブホが末永く営業していってくれることが1番の願いである。