言葉にすると叶うこともあるというのならこの旅はまるでそれだった。
私は最北端の土地に興味があった。暖かい気候の地域の陽気さより、寒い地域の気を張って生きないと自然に負けてしまうあのシンとした空気に寂しさとたくましさが入り混じった雰囲気が好きだ。そんな土地に佇むラブホテルを1度この目で見てみたかったのである。
〚北海道へ行こう〛
ちょうど1年前、ラブホテル写真家の那部さん(普段はシオンちゃんと呼んでいる)インスタアカウントはこちらhttps://instagram.com/ayuminabe?igshid=YmMyMTA2M2Y=
とやりとりをしていて
北海道に気になるラブホがあったのだが、私の行きたい稚内と合わせると総移動距離が300㌔を越えそうであり3泊しないと難しいのではという結論に至った。その話が出た時点で10月の中頃。以後北海道は雪に包まれる。関東のちょっとした積雪で寒いだヤバいだ騒いでいる平野民からしてみたら危険な時期である。一旦春が来るのを待つことにした。飛行機代もクソ高いが安全をとり雪のない時期に訪問することを選ぶ。
〚今年の夏はおかしかった〛
北海道の夏が涼しいとはいえ、関東は40℃に迫る暑さが続きとても遠出する気力体力はなかった。とりあえず遠征もこの気温が落ち着いてからでないと、ということで9月ようやっと気温が落ち着いた頃遠征を決めた。
もともと10月に予定を合わせていてあとはどこに行くかを決めるだけだったので、他の地域と悩みながら那部さんの推す北海道に行くことになった。
〚北の大地が仕掛けてくる〛
北海道行きが確定したのが訪問の3週間前。そこからは怒涛のスケジュール調整や手配となった。タイトめな3泊4日北海道旅。課題はいくつかあった。
〚生きて帰れるのか?〛
課題1 長距離移動。
普段運転をしないので長距離運転に強い不安がある。特に3日目は150㌔以上移動予定で、途中トイレは?食事は?ガソリンはもつのか?等いろんな不安が雪だるまのようにふくれていく。
北海道に住んでいたことのある人に聞くと「なんにもないよ」と口を揃えて言う。最悪野トイレを覚悟したがグーグルマップを見るとコンビニがところどころあり安心した。
セイコーマートというローカルコンビニへの賛辞も何件か聞いたので少しワクワクする。
課題2 野生動物の出現。
ゴールデンカムイを読み込んで北海道へのイメージとしてナチュラルに熊が出るが植え付けられている。この時期は冬眠前て気が立っているとか人里におりてくるとか、危険さマシマシじゃんという状況。なるべく人気のない外には出ない、を徹底し20%くらいは死を覚悟する。
熊だけでなく鹿も。夜はハイビームで車を走らせろと助言を受け生唾を飲み込みながら頷いた。
課題3 寒暖差
関東が10月だというのに29℃を叩きだした数日後には最高気温15℃あるかないかの地域に旅立つのである。寒暖差で自律神経が終わりそう。
そして帰る日にはまた夏日だという。何を着ればいいのか。何を持っていけばいいのか。仕方ないのでユニクロのウルトラライトダウンを買った。軽くてありがたい。リュックも35リットルのものにしとにかく防寒具と帰る日の夏ワンピを詰め込んだ。着るものを選ぶのにも苦戦するとは。北の大地が仕掛けてくる。趣味の火曜サスペンスごっこの衣装を含めるとパツパツになったリュックは軽く7㎏を越える。
首肩がやられないよう2週間前から肩の筋トレを始めた。
課題4 食べ物
北海道といったら海鮮や乳製品だろう。新米の季節だしたらふくご飯を食べたいところである。が、腹弱民としては牛乳コップ1/2ほどで腹を壊し、ウニなどの海鮮でも腹を壊す。トイレもあるかないかわからない移動‥「向こうでは乳製品と海鮮は食べません!」と涙ながらに宣言したという。本当はウニとか大好きなのだが。
※これは旅館の朝食で出た牛乳。思わず身構えた。
課題5 飛行機
トイレに行けない状況に置かれることが何よりの不安になるので飛行機は苦手。揺れるし。ここは飛行機に乗らないとどうしようもないので腹をくくるしかない。
課題6 行きたいラブホがやっていない可能性
これは仕方ない。やっててくれと祈る気持ちで向かうのみである。
課題7 突然の和歌水解体
あの名連れ込み宿、和歌水が閉業となった。突然の知らせに最後訪問する間もなく解体工事が始まった。
↓和歌水に行ったときのブログ
https://sakamotwin.hatenablog.com/entry/2019/06/11/224332
何度かお邪魔して色んな部屋を見たかったけど近いからとそれを怠った自分の落ち度なので悔やまれる。
準備そっちのけで和歌水解に行くと足場が組まれておりそっと別れを告げてきた。好きでも寄り添えないもののほうが多く無力感を抱えて北海道へ旅立つのはある意味傷心旅行のようなものである。
〚出発当日〛
夕方のフライトとなり、旭川への到着は夜。
旅の支度をしながら強まる雨風に飛行機揺れるだろうなと不安を募らせる。うちの猫ちゃんたちはソワソワするねねを見るも稼働させたストーブの前でとろけていた。旅は楽しいけども出かける前の億劫さも多少はあるのでゴロゴロする猫ちゃんたちが羨ましくもあった。
羽田で那部さんと合流し、和歌水解体の話や北海道での動きの再確認をした。人と話すと不安が紛れるので同じ目的の人の存在はありがたい。
出発ロビーで「気流の関係で揺れることが予想されます」と何度もアナウンスされたので酔い止めを飲んでおいた。悪天候で滑走路が1本しか使えないとのことで出発は遅れたし飛行機もそこそこ揺れた。揺れる密室は精神的負担が大きかったがなんとか耐え無事に旭川空港に到着した。
さてここから愉快なドライブ(仮)の始まりである。
旭川から100㌔近く移動し最初で最大の目的地、とあるラブホへ向かう。
〚愉快なドライブ〛
(撮影那部さん)
旭川空港を出発してから10分もしないうちに舗装工事をしている砂利道を走ることに。小石がパチパチと弾ける音がする。北海道は交通インフラに力を入れていると聞いていたがまさか初手からこんな砂利道を走ることになるとは思わなかった。
「大丈夫?これ!大丈夫!?」とレンタカーの傷の心配をしながら走る。北の大地の洗礼を受けている。不安よりも愉快だなと思い始めた。多分ちょぴっと脳内麻薬が出ていたんだと思う。少し走ると普通の車道になり落ち着きを取り戻した。
〚そこにホテルはあるのか〛
お目当てのホテルの前に翌日巡る予定のホテルの夜の外観だけでも見ておこうと横道にそれた。看板もなく対向車もなく真っ暗な世界。
カーナビは進めと言うが、正直引き返したほうが良いレベルのなにもなさ。牧場や資材置き場すらない、ただのなだらかな山道だ。野生動物の出現と本当にここにホテルがあるのか、という不安が車内を包む。
「これ、本当にあるかな」
「やってなくても仕方ないよね」
「ねえ、もうそろそろ着きそうなんだけどなんの看板もないよ」
「明かりすら見えなくない?」
「雲行き怪しいねぇ」
と話していると突然それは現れた。
(これは翌日訪問したときの写真なのでだいぶ空が明るいが初日ついたときはもっと暗かった)
「電気が‥ついてる!やってる!」
「やったーーー!」
「待ってろーー!明日くるぞーーー!」
と車内がめちゃくちゃ盛り上がった。そりゃ街灯にとつない真っ暗闇を進み希望の光が灯っていたのだから。舞台が暗転したようなまぶしさだった。
時刻は22時近くとなり余韻に浸る間もなく目的のラブホへ行こうとした矢先、車を横切る50cm以下の4足歩行のなにか。
「うさぎだーーー!」
一瞬にして横切ったため轢かずにすんでよかった。
ぱっと見だが、多分夏毛のエゾウサギなのではないか。
画像はWikipediaより。
かわいいと思う間もなく闇に消えてしまったが北の大地が仕掛けてくる。旭川動物園に行かなくても動物が見られたので得した気分だ。
盛り上がりを見せる北の大地の夜。
撮影那部さん
踏切待ちする車も通過する列車もない。
途中墓地群にも出会い恐ろしさもあったが、手厚い歓迎じゃんもはやネタだねと軽く笑えるくらいには先のラブホが営業していたことやうさぎの出現に気を大きくしていた。
そうしてたどり着いたお目当てのラブホ。
ここまで長かった‥けどやっとたどり着けた‥
さぁいよいよ!
うわーーーー‥
最高だ!!
よく来たねと歓迎されているような部屋だった。
手を取り合って喜んだ。でも感動に浸ってる場合ではない。急いで撮影し、那部さんをおいてねねはビジホへ向かう。
なぜビジホに泊まるかというと
- 朝食がある
- 大浴場がある
- コインランドリーがある
- 空調システムが安定している
- 外出が気ままにできる
- 安心感がある
という理由からである。
2年前青森へ行ったとき、某ラブホに宿泊して極寒だったと翌朝疲労コンバインで再開した那部さんの顔が忘れられないのもある。
そのときの那部さんの手記↓
宇宙船で夢の城へ【青森県十和田市】夢の城 13号室 - 愛欲空間 -昭和レトロなラブホテル探訪-
山道から市街地へ向かいやっと人里に下りてきた気分。
街の中心にはスナックが立ち並び、ごきげんに歌う人たちの声が漏れてきた。
〚こんばんは、おやすみ〛
ホテルについたのは23時頃。
荷物を整理して達成感と披露でお疲れ気味の胃に納豆巻き(旅先での貴重なタンパク源)を詰め込み大浴場を独占し眠りにつく。高揚していてとても眠れそうな気分ではなかったが楽しい夜だったなと目を閉じた。
ふと脳裏に浮かんだのは
シャイニングみたいなラブホのトイレだった。いい夜になりそうだ。
2日目に続く。