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さかもツインの健康で文化的なようでそうでもない生活をお送りいたします

遺影を撮ってもらった

もうすぐで40歳になる。節目の年齢となるので何か記念になることをしたいなと思った。成人式は旅行に行き振り袖姿での写真は撮っていない。ならば成人式の2倍を生き抜いた記念と、今後も大きなライフイベントがないと思われる私の人生の集大成として遺影を撮ることにした。

今現在余命宣告を受けているとかそういうことはなく、年相応のへたりは見せているものの概ね元気なので安心してお読み下さい。

 

 

撮影を依頼したのはラブホテル写真家の那部亜弓さん。

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那部さんとはラブホ遠征に一緒に行く仲で、北海道へ行ったときラブホの近くの広大な墓地群を見て「遺影とか…用意してる?」と話をしたこともあり、撮影に関して抵抗なく入ってくれるだろうなと思いお願いした。

 

北海道遠征の話はこちら↓


北の大地が仕掛けてくる 2日目 - ここから先は私のペースで失礼いたします

 

まさかラブホでキャイキャイしてる写真がいいよね〜なんて笑い話にしていたものを実行する日が来るとは思ってもみなかった。

 

【遺影をどこで撮るか】

遺影=色んな人が見る写真であるため、ポップなホテルよりはクラシカルで落ち着いたホテルがいい。

はい、うってつけのホテルが大阪の京橋にございます。ホテル千扇さんです。

ホテル千扇

ホテル千扇は那部さんと2022年の初夏に訪問して以来色々とお世話になっている。

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入口すぐの大階段など、重要文化財に指定すべきだと常々思っている。

 

姉妹店のホテル富貴さんでも撮影。
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昭和ラブホにハマるきっかけとなった1つのホテルであり、人生を変えるほど

 

【何を着るか】

ドレス?着物?普段着?着るものについては撮影の直前まで悩みに悩んだ。せっかくだから銘仙の着物かな?と考えたが色合わせなどしっくりこず。

レンタル振り袖もこれを着たい!というのが見つからなかった。

母の形見の袋帯を使えたら、とアンティーク振り袖を探していたところドンピシャでこれ!という振り袖が見つかった。ネットで購入。撮影1週間前のことである。成人式×2にちょうどいい。

運良く着付けをしてくれる美容室も見つかり振り袖を着る段取りがついた。

あとは洋装もあれば着たいわよね、ということでドレスも数点持ち込む。キャリーケースに入りきらなかったので段ボール箱に入れ宅急便で送った。f:id:sakamotwin:20231201223715j:image

小顔マッサージに行き気合は十分入った。

 

いざ大阪へ】

前日は十三でキャバレーやラブホを見学。
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一瞬でこの煌めきの虜になってしまった。
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怒涛の1日が過ぎ、餃子定食を食べながら古き良き昭和がこうやって今も残っているありがたさをかみしめた。
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腹ごしらえをして宿泊地へ。那部さんはラブホへ、私はビジホへ向かう。遠征の夜はいつもこんな感じ。

 

 

【撮影当日準備】

身支度を済ませ大荷物を持って着付けの美容室に行く。駅から近いのだが場所が入り組んでいてわからず小汗をかきながらハァハァとうろつき無事にたどり着いた。

 

着付けの小さなスペースに通され、着付師の御婦人が出てきた。着物と和装グッズの確認をしていざ着付け。

するすると襦袢や着物を着付けていく。まぁとにかく紐紐紐。紐でしっかり固定させるのだが緩みなくばきっと決めてくれる。

「今日は結婚式かなにか?」

「レトロなホテルで記念撮影なんです」

「?へぇ~、素敵ですね」

というなんで振り袖を着ているのかよくわからないけどまぁいいか、といった会話が繰り広げられた。

 

帯を締めるとき着付師さんがハァハァ言いながら苦戦していた。

「刺繍が入ってて帯が硬いの。でもしっかりしてていい帯よ〜」

と話された。これは母が結婚式で使った帯で、20代前半のあまりお金の無い頃に買ったものも思われる。何年も大切そうにたんすにしまっていた。きっと娘に譲るつもりでとっておいたのだろう特別な帯なのだ。

「母の結婚式で使った帯なんです」

「まぁ、それじゃあ今日使ってもらえてお母さん喜んでるんじゃないかしら」

と言われたとき亡き人の心情を想像して目頭が熱くなってしまった。これが1人だったらおいおい泣いてしまっていたと思う。形見を引き継ぐことの喜ばしさと重さを受け止めた。

1番よく見える部分に扇の刺繍が出るよう帯を締めてもらった。これから行く千扇にぴったりだ。

黒い振り袖と金色の帯がかっこよく決まった。背筋が伸びる。着付師さんの丁寧な仕事に清々しい気持ちでいっぱいになった。

 

 

撮影開始】

ホテル千扇で那部さんと合流し、メイクなど最終調整をして撮影を開始する。

イメージとしては昭和のお見合い写真のような奥ゆかしいものがいいなと思っていた。

自分で言うのもなんだが、千扇の赤絨毯に黒の振り袖があう。ロケーションと着るものが完璧にハマったときはすこぶる気分がいい。
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日中の千扇2階廊下はカーテンを開けると日が入りなんとも明るい。

顔がアップすぎるとここではアレなのでぼかしを入れてるがこれは遺影にしたい。以下3枚撮影那部さん↓
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令和の時代感ではないけどもレトロで格式高い感じがして気に入っている。

 

ホテル富貴に移動してまた撮影。
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全身の写真でも良ければこれも遺影にしたい。
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好きな場所で好きなものを着て晴れやかにしているから。頂いたデータをワクワクしながら見ている。

 

 

【そもそもなぜ遺影を?】

なんでこんなに遺影にこだわるのかというと、わりと遺影選びに苦労しているというのがあるからだ。祖父母の遺影はおじが決めたのだが、どの写真にするかやはりとても悩んだらしい。我々が見知った馴染みのある白髪のしわしわになった顔の写真である。ひと目でじいちゃんばあちゃんであるとわかるものでいいと思っている。

けども心のどこかでもっと若いときの笑ってる写真とかでもいいのではとも思っている。本人たちの意思が反映されない議論となるので不毛だし、遺影は残された人の心に寄り添う写真だとしたら直近のものがいいというのもあるかもしれない。正解のないものだからこそなるべくみんなが満足できるものがいい。

 

仕事では病棟で寝たきりになった人たちと接している。たまに若いときの写真や旅行したときの笑顔の写真を床頭台に飾っている人がいる。私はそれを見るのがすごく好きだ。元気なときの姿を垣間見れるし、写真を撮ったであろう身内に向けた安らかな表情は何にも代えがたいほど素敵である。

「え〜これ◯◯さんの元気なときの写真?素敵ねぇいっぱいでかけたんだねぇ」なんて話しかけている。退院された人の写真でもわりと覚えているものが多い。見るものを惹きつける力がある。そういうものが遺影であればいい。

今回那部さんに撮ってもらった写真はそういう類のものだと思う。着飾って楽しそうにしている姿がよかった。撮影中何気ないいつも通りの会話を繰り広げ、昨日の延長から明日に向かって生き生きとしていた。その時間の切り抜きなのである。

 

備えあれば憂いなし】

まだ若いと言ってくれる人もいるが40ともなれば色んな疾病のリスクも上がってくるし事故やらなんやら急なことに備えておくのがいい。旅行に行く前に荷造りするように、軽い気持ちでいずれ訪れる死の前に遺影を用意したというだけのことだが十分すぎるほど気合を入れたのが楽しかった。

 

母は癌で亡くなった。

余命宣告を受けてまだ元気なうちに写真館で親戚の結婚式のために我々がプレゼントしたスーツを着て遺影を撮った。何枚も撮ったので選ぶのに苦戦していた。縁起悪いからまだ撮らなくていいよって言ったけど本人の満足度も考えれば早めに撮って良かった。終末期は痩せて貧血と黄疸で顔色が悪かった。遺影の元気なときの姿が救いにも見える。他にモ写真はいっぱいあり、大好きな山登りをしていたときの写真なんかと良かったのだがなにせイイダとかで買ったロンTだったりするのでそこら辺はやはり気になったんだろう。ちゃんとしてる写真は大事と身をもって教えてくれたから私も遺影を早めにとっておいた。

 

また50歳になるころには改めて撮ろうと思う。それまで何もなければ、の話だか。遺影はしっかり準備しといても断捨離はできていない。撮影用の衣装がどんどん増えていく。私亡き後の部屋の片付けをするであろう身内の「ねねちゃんさぁ、遺影だけは立派に撮ってるけどそれよりこの部屋の服どうにかしてくれたほうが助かるよね!大変すぎる」という未来からの文句が聞こえてくる。。まぁ、それはまたおいおいやっていきます。

 

【最後に】

こんな撮影協力をしてくれた那部さん、ホテル千扇、富貴さん、着付師さん、お留守番してくれためめちゃんとさかもキャッツたちには感謝しかない。

今年も1年色んなことを楽しめて満足している。皆様に支えていただいたおかげである。まだ年の締めをするには早いが、また来年も元気で頑張れればと思う。

これは三脚での自撮り、2023年10月ホテル千扇にてf:id:sakamotwin:20231202050242j:image